その43 飲み屋
レノが怪しむように目を細めた。
「誰と組んだんだい? 私以外の奴に浮気するなんてさー」
「あほか。そもそもお前が勝手にパーティーやめるとか言ったんだろ。いつ死ぬかも分からないし収入が不安定な冒険者をやってるより、死ぬ危険のない定職に就きたいとか言ってよ」
「ああそれなー」
レノが俺の肩に腕を置く。いつものように絡んでくる口調で。
「正直ちょっと早まったかなー、とは思ってるんよ。いや給料は良いし可愛い後輩もいるし、仕事自体も楽しいっちゃ楽しいんよ。ジークに絡めるし隙を見て適度にサボれるしさー」
「サボるな絡むな」
「でもねー、不満もあるんだなー、これが。残業も割とあるし、いやそれは別にいいんだけどさ、残業代が結構出るから」
「ならいいじゃねーか」
「だけどねー、上司の中に嫌な奴がいたりするんだなー、セクハラしてきたり仕事終わりに食事に誘ってきたり。下心丸見えだっつーの」
「ま、そんな奴もいるさ。嫌ならやめりゃあいいし、なんならまた冒険者に戻ったらどうだ?」
「おーう?」
レノがまじまじと俺の顔を見てくる。近えんだよ。
「ま、確かにジークの言う通りかもなー」
「本当にやめる気か?」
半ば冗談で言ったんだが。
「さあねー。とりあえず分かったことは、ジークは私がセクハラされても怒らないってことかなー」
「お前なら逆に返り討ちに出来んだろーが。言葉でも実力でも」
「なははー、確かにそうだなー」
レノは俺の肩から腕を話すと、飲み屋の方へ親指を指し示した。
「飲んでかねー? 少しくらいなら付き合えるっしょ?」
「いやだから飯はもう食ったから」
「飲むだけだよ。酒じゃなくてもいいからよー」
「お前だって飲めねえだろ」
「なはは、そうだったなー。とにかく行こーぜ」
そう言ってレノは俺の腕に自分の腕を組ませて、強引に飲み屋へと歩いていく。
「おい引っ張るな」
「遠慮しなくていいんだぜー」
「いや普通に歩きにくいだけだ。転んだらどうする」
「筋力が守ってくれるんじゃね? ジーク、体力馬鹿だし」
「誰が体力馬鹿だ!」
「んじゃ脳筋」
「脳筋って言うな!」
人が気にしてることを!
そんな言い合いをしながら俺達は飲み屋の一つへと入っていく。他の客の数はそれなりにあり、中々繁盛している店だった。
壁には料理が書かれた木札も掛けられている。普通に紙のメニュー表も用意されているが……昔ながらの居酒屋や大衆食堂って感じだった。奥の方に空いている席があり、俺達はそこに案内される。




