その42 ディナーを終えて
それから俺達はディナーを終えて、俺は帰路に着くことにする。屋敷の門まで見送りに来たファラが言ってくる。
「本当に帰ってしまうんですか? 別に泊まっていってもいいんですけど……」
部屋は余りまくっているらしい。流石金持ち貴族。
「悪いな。俺は枕が変わると眠れなくなるんだ。繊細な性質だからな」
「そうなんですか」
執事が開ける鉄格子の門を潜りながら。
「そんじゃあな。飯旨かったぜ」
「ありがとうございます。料理人にも伝えておきますね」
「明日からは本格的にギルドのクエストに出向くことになるからな。しっかり休んどけよ」
「はい。今日は色々とありがとうございました。また明日、いつものカフェで待ち合わせですよね」
「ああ、今日と同じでな」
「分かりました。それじゃあ……さよならです」
「おう、さいなら」
名残惜しそうに手を振るファラに、俺は手を軽く上げて返すと背を向ける。ズボンのポケットに手を突っ込んで歩いた先で、ふと振り返ると彼女はまだこちらを見送っていた。
こちらに気付いた彼女がまた手を振ったので、俺もまた手を軽く上げ返す。そして再び背を向けて歩き始めた。
……やれやれ、俺の姿が見えなくなるまで見送るつもりらしい。律儀な奴だ。
彼女や、彼女に付き添うメイドや執事を早いとこ屋敷の中に戻らせる為にも、俺はもう振り向かずに歩いていくことにした。
肌寒い季節ではないから風邪は引かないだろうが、それでも余計な気を遣わせたくはないからな。
そうやって俺は街灯型のサポートアイテムが照らす夜道を歩いていく。やがてファラの屋敷からだいぶ離れて、飲食店や夜店などの盛り場のがやがやとした雰囲気が近付いてきた頃……。
「あんれー? ジークじゃーん」
不意に声が掛けられて、俺は振り向く。そこにはギルドで職員を勤めている女……以前、一時期パーティーを組んでいたレノがいた。
「なんだ、お前か」
「なんだとはなんだー?」
だる絡みするようにレノが文句を言う。本気で怒ったり不満に思っているわけじゃなく、どちらかというと悪友みたいなノリだ。
「珍しいじゃーん、ジークがこんな時間にこういう所にいるなんてさー」
「偶然だ、偶然。新しくパーティーを組んだ奴の家で夕飯食った帰りに、偶々近くを通っただけだ」
「……ほう……新しくパーティーを組んだとなー」
ギルドで働いている時はポニテとしてまとめているレノの髪だが、いまは下ろして先の方がややウェーブがかっている。いや単に髪に癖がついているだけか。




