その39 使うの禁止
それから俺は、もう夕方近くで、また練習試合をした労いということで、ファラの家で夕飯をご馳走させてもらうことになった。
「なんか、分かってはいたんだが……やっぱファラん家は金持ちなんだな……」
小説とか漫画でしか読んだことがないような、広いダイニングに凄い長いテーブル……その中央付近の椅子に座りながら俺はつぶやく。
「あ、あの、お口に合わなかったですか……?」
隣にはファラの姿があり、ダイニングの壁際やドアの近くにはメイドや執事の姿が見える。目の前のテーブルには豪華な料理。
不安そうなファラに俺は答える。
「いや、マズくはない。むしろ滅茶苦茶ウマイ。いままで食ってきた中で一番かもしれんくらいには」
「そ、そうですか、良かったです……」
ファラの両親の姿は見えない。二人とも忙しいそうで、一緒には食べられないらしい。おっさんはいま関わっている事業についての話し合い、ファラ母は他の貴族との夜のお茶会に参加しているとのことだった。
「……もしかしたら、お父さんもお母さんも気を遣ってくれたのかも……」
ファラがつぶやく。俺はナイフとフォークを持って目の前のステーキと格闘していたのだが、彼女のつぶやきを聞いて顔を向けた。
「ん? 気を遣った? 何にだ?」
「い、いえ、何でもありません……っ」
ファラが慌てたように手を振った。この話題から離れる為か、続けて言ってくる。
「それにしても、ジークさんってやっぱり凄いですね。まさか私の影縛りを自力で脱出してしまうなんて」
「あー……あれな……」
あれは確かに強い技だった。相手や状況次第では完封出来るくらいには。
だがしかし……。
「あの影縛りって特技、これからは使うの禁止な。少なくとも俺が使ってもいいと言った時以外は」
「……え……っ? 何でですか?」
予想していなかった言葉だったらしく、ファラがびっくりしたように聞いてくる。俺は切り取った肉片をもぐもぐしながら。
「あれは確かに強いが、デメリットが割と厄介だからな。相手と同じ箇所が動かせなくなるのは、場合によっては不利になりかねねえ」
「あ……」
ファラも思い至ったようだ。俺は次の肉片を頬張りながら続ける。
「今回は練習試合で一対一だったからまだしも、実戦では複数戦なんて当たり前だし、途中から敵に増援が来ることも充分あり得る。そんな時に即座に動けなければ、格好の的になりかねないからな」
「でも、それは相手も同じでは……?」
「あのなあ」
俺は肉片の刺さったナイフをファラへと向けた。
「それは敵も仲間を大事にするような輩だった場合だろ。悪人とか知性の低い魔物とかなら、使えなくなった奴は切り捨てて、厄介な力を持つお前を始末することを優先する筈だ」
「……っ」




