その38 いまの私では
「そ、そんな……っ。信じられない……『影縛り』を純粋な力だけで……っ⁉」
ファラが心底驚いた声を出す。俺がいまにもこの拘束を破ろうとしているのに追加の矢を撃ってこないということは、やはり制約で自分も動けないということだろう。
そして俺はこの拘束を破るのに成功した。僅かに痛む肩を手で揉みながら、ファラに言う。
「うむ、動けなくなった時は少し焦ったが、何とか脱出出来たな。結構良いスキル持ってんじゃねえか」
「……っ」
彼女はというと、未だに信じられないのか呆気に取られた顔を浮かべていた。やっぱりまだまだ戦いの初心者らしい、気を取り直して次の攻撃を続けられないようだ。
そんなファラへと、首や肩や手をポキポキと鳴らしながら俺は歩き出す。
「さて、と。そんじゃあそろそろ俺も攻撃に移らせてもらおうかな。行くぜ、ファ……」
「参りました」
逆にびっくりするくらい早く、ファラは諸手を上げて降参の意を示した。むしろ俺の方が目を丸くしたくらいに。
「……へ……?」
「降参です。影縛りを自力で脱出されるような方に、いまの私では到底勝てません。ジークさんはお父さんにも勝った方ですし」
「…………、あー、えーっと……」
確かにファラの言っていることは当を得ているだろう。観戦していたおっさん達もこちらに歩いてきながら言ってきた。
「おー、勝負はついたようだなー。ファラにしてはよく頑張った方じゃないか?」
「貴方、ファラに失礼じゃありませんか? それにしても拘束プレイを拒むなんて……ジークさんは照れ屋さんなんですね」
「なるほど。ジークはノーマルな方が好きだったと」
なんか勝手に盛り上がってるし、ファラも、
「お父さん⁉ お母さん⁉」
と文句の声を上げているし、むしろ練習試合よりもこの二人の相手をする方が疲れる気がする。俺は顔に手を当てながら溜め息を一つついた。
そんな俺を見て、何を勘違いしたのか、おっさんが励ますように言ってくる。
「ジークよ、思う存分戦えなかったのは残念だが、これは元よりファラの実力を見る為の試合だろう? そこまで気を落とさずとも、目的は達せられたじゃないか」
「いや、あんたら夫婦のせいで溜め息ついたんだが」
「何だと⁉ 私達の仲睦まじいラブラブおしどり夫婦っぷりに嫉妬していたのか⁉」
「どうしてそうなる⁉」
つーかラブラブとか久しぶりに聞いたぞ! 地味に言葉が古いんだよ!
ファラ母も上品に笑いながら言ってくる。
「おほほ、ジークさん、心配なさらずとも貴方達もいずれこうなりますよ。私が保証します」
「勝手に決めたり既成事実を作らないでください!」
俺は文句を言い、またファラも小さくつぶやくように。
「……なんか、こんな父と母ですみません……」
「……いや、ファラがそう言う必要はないというか、ファラも大変だな……」
この両親だと毎日疲れそうだなと思った。賑やかではあるだろうが……。




