その37 勝負はまだ分からない
ほとんど初期位置から動かずに対処していく俺に、ファラが驚いたようだ。
「凄い……! まさかこの矢の雨を最低限の動きだけで防ぐなんて……!」
しかし、戦意もまた高まったようで、彼女のそばの空間に浮かんでいたウィンドウに新たなメッセージが表示されていく。
『弓矢スキル:レベル5
特技:『影縛り』』
ん? 影縛り?
こちらへと片手をかざしながらファラが言った。
「でも、その余裕が命取りになりますよ……! 私の『影縛り』で動けなくなってください……!」
……⁉ ……これは……⁉
お、おお……⁉ 矢の雨を対処し終えた俺の身体が動かなくなる。まるで石化したみたいにギチギチになって、指先すら曲げられない。
「私の『影縛り』は、矢で突き刺した影に対応する箇所の、相手の身体を動けなくします。いまの矢の雨でジークさんの身体の影の至る所を刺したので、ほとんど動けなくなっている筈です」
これは……中々に強力だな。俺は口元を動かそうとして……どうやら口は動くようだ。なんとかって感じではあるが。
「……結構、強い特技じゃねえか……流石にちょっと困ったぞ……」
「ちょっとですか? 軽口を叩けるのもいまのうちですよ。相手が私だからって油断したせいです」
「ふむ……だが、ファラはなんで俺へと向かってこないんだ? いまなら鼻と口を塞ぐだけで俺を倒せるぞ」
「それは……そんなことしなくても、もう私の勝ちが決まったからです。これ以上の戦いは意味がありません、ジークさんはもう動けないんですから」
ほうほう、なるほどねい、そういうことか。
「嘘が下手だな。レベル5でこんな強すぎる特技とか、何のデメリットもなしに使えるわけがない。さしづめ、制約は『自分もその場から動けなくなる』か『拘束した箇所と同じ箇所を動かせなくなる』、ってところか」
「……っ。そ、そんなことはありません……!」
「そうか? なら矢を撃ってこいよ。いまならどこに撃っても百発百中だぜ」
「それは……っ。ひ、必要ないと言った筈です。もう勝負は私の勝ちで……」
俺は口角を上げる。
「いいや。俺は気絶していないし、戦闘不能にもなってない。勝負はまだ分からないぜ」
「な、何を言って……?」
「……はあっ……!」
俺は一声発して、全身にありったけの力を込める。ビキビキと腕や足の筋肉に痛みに似た刺激が走っていく。
そしてそれに呼応するように、俺の背後の地面からブチブチと何かが千切れるような、あるいは弾け飛ぶような音が聞こえてくる。おそらく俺の影に突き刺さっている矢が壊れていっているのかもしれない。




