その36 『分身射撃』
ファラがハッとする。彼女が俺の右腕を狙ったのは、徒手空拳の要である腕が使えなくなれば継戦出来なくなると考えたからだろう。
頭や心臓を狙って、万が一にも重傷を負ってしまったらと心配したんだ。だが……。
「実際の戦いでは、魔物も悪人も手加減なんてしてくれねえ! まずは自分が勝ち残って、生き残ることを第一に考えろ!」
「……っ! は、はいっ!」
戦場ではまず自分が生き残らなけりゃならない。死んだら元も子もないんだからな。敵を心配して自分が殺られてたんじゃ何の意味もない。
俺はニヤリと不敵に笑う。ファラの心配を取り除く為、そして戦意を高める為に。
「だいたい俺はこの程度の攻撃じゃ死なねえ。いまみてえに簡単にいなして、逆にお前を瞬殺出来る」
「……っ⁉」
「死にたくなかったら、本気の全力で来るんだな」
そこで俺はほんの少しだけ威圧感を発散させた。魔物相手みたいにやり過ぎると逆にファラが怯んじまうだろうから、本当にちょっとだけ。彼女の戦る気をくすぐって、立ち向かって来るように。
その作戦は功を奏したようだ。ファラは意気込んだ様子で再び弓矢を構えた。
「行かせてもらいます! 『分身射撃』!」
ファラのそばの空間にメッセージウィンドウが表示される。スキルによる特技使用時のウィンドウだ。
熟練することでこのウィンドウ表示はオフにすることも出来るが……彼女のウィンドウには、
『弓矢スキル:レベル1
特技:『分身射撃』』
と表示されていた。
そしてファラがさっきと同じように矢を撃ってくる。分身射撃か……その特技名が明示するように、矢は空中で二つに分身して、一つは俺の頭、もう一つは心臓へとまっすぐに向かってくる。
「なるほどな。だがまだまだだ、この程度じゃ足りないな」
その二つの矢を、俺は両手に一本ずつ掴み取っていく。狙いが見え見えだから対処も簡単だ。
「流石ジークさんです、でも、これならどうですか!」
ファラが今度は頭上、空高くへと矢を放った。それは『分身射撃』によって大量の矢群となって、文字通り矢の雨として俺へと降り注いでくる。
「ほお、二つに増やすだけじゃないのか」
だが俺は慌てず、依然その場から動くこともしない。所詮は数が増えただけ、要は俺の身体に刺さりそうな矢だけを的確に処理していけばいい。
そうして俺は両手を素早く動かして、刺さりそうな矢を掴み取ったり弾いたりしていく。すぐには手の届かない足先に刺さりそうなやつだけ、足で蹴り飛ばしていった。




