その32 ……うっす
「ファラの武器は弓矢だからな。常に持ち歩くのはかなり面倒だし、実戦の時も他の武器より、どうしてもモーションに手間や時間が掛かる。それを少しでも軽減する為に、指輪型の中にしまっておいた方が便利だと思っただけだ」
「…………」
「ま、最終的に決めるのはファラ自身だがな。それとも、いまは金がないのか?」
「いえ……父から独り立ちの準備資金として、ある程度いただいているので……買えることは買えるのですが……」
流石貴族。準備資金のスケールも違うってか。
ファラは少し迷った素振りを見せた後、おっさんに言った。
「ください。この指輪型の収納アイテムを」
「毎度あり。すぐに身に付けていくかい?」
「はい」
「よし、んじゃ……」
俺はそこですかさず口を挟んだ。
「待った。ファラ、買うならそっちの指輪にしとけ」
「え、何故ですか?」
「こんなおっさんが手にした指輪なんか嫌だろ?」
「…………」
押し黙るファラ。おっさんの額がピクピクしていた。無理矢理捻り出したような笑みを浮かべておっさんが言ってくる。
「おいジーク、そりゃあどういう意味だ? ん?」
「そのまんまの意味だよ。こんなゴリラみてーなハゲたおっさんが触ったものなんて、俺だったら遠慮してーからな」
「てめー! ジーク! 表に出ろ! 今日という今日はその馬鹿な頭をかち割ってやる!」
「おうよ! 俺もてめーの脳味噌が頭皮同様ツルッパゲなのを証明してやらあ!」
「このヤロー! そんなにハゲハゲ言うならてめーもハゲにしてやらあ!」
「やってみろゴリラ!」
「ああ⁉」
「ああ⁉」
俺とおっさんがメンチを切りながらそうやって言い合っている中、ファラはどうしたらいいのかとおろおろしていた。と、その時、俺とおっさんの頭が鷲掴みにされる。
「あんたら、いつになったら『店内はお静かに』って言葉を理解出来るんだい?」
ギギギと軋むような擬音を立てながら、俺とおっさんの頭が同じ方を向けられる。そこにいたのは一人の女……おっさんのかみさんだった。
かみさんはいまにも頭から角をにょきにょきと生やしそうな勢いで、俺とおっさんに言ってくる。
「それと街中で喧嘩すんのも禁止だよ! 特にジーク、あんたはもう既に色んな所で滅茶苦茶壊してんだからね! これ以上壊したらこの街から出禁になるよ!」
「ま、まさか追放っすか⁉ 嫌っすよ! こんなカッコ悪い追放なんて!」
「馬鹿なこと言ってる暇があるなら、その喧嘩癖を直しな! 街から追い出されたくなかったらね!」
「……うっす」




