その27 冒険者の心得
その後、俺は一度ファラ親子と別れた。依頼された以上、俺自身が約束した以上、それを反故にする気はない。
二人には先の騒動の謝罪をさせる為、及び冒険者としての準備をさせる為の時間が必要だからだ。それと今後は家族と過ごせる時間が少なくなるだろうから、それを惜しむ為の時間も。
それらの事柄に、俺は必要ないだろう。邪魔になるだけだから、一旦離れることにしたのだ。
そして翌日。昼過ぎ、午後の一時くらい。俺とファラは再びいつものカフェで落ち合った。
「すいませんジークさん。待ちました?」
「いや。俺もいま来たところだ」
カウンター席に座る俺にファラがそう言ってきて、俺は答えた。傍目にはデートの待ち合わせをしているようにも見えたかもしれない。そんなことは一切ないのだが。
そんな俺達に、モップで床磨きをしていたウエイトレスがジト目を向けてくる。動かしていた手を止めて、モップの柄の先に華奢な手と顎を乗せて呆れたように言ってきた。
「なんでそんなすぐ分かる嘘つくんですかねー? コーヒーとドーナツ食べてたくせにー?」
「…………」「え……? あ……」
ファラがカウンターテーブルに置かれているそれらに気が付いた。俺はジト目でウエイトレスを見返しながら。
「別に言わなくてもいいでしょ。空気を読んでくださいよ」
「へいへーい。空気を読んでツッコンダだけですよー」
何が不満なのか、少し拗ねたように床磨きを再開する。何なんだよいったい。
戸惑った顔でこちらを見てくるファラに、俺は言った。
「冒険者の心得だ。例え気心が知れた知り合いでも、相手の言うことを鵜呑みにするな。常に情報を精査して、何が正しいのか自分で判断しろ。いつ何が起きて、誰が裏切るのか分からないんだからな」
「な、なるほど……! それを教える為にわざとカップルみたいな返事をしたんですね……!」
納得したらしいファラが上着のポケットからメモ帳とペンを取り出してメモしていく。俺はそれも見咎めるように言った。
「メモを取るのは感心だが、冒険者をやる以上は自分の頭で覚えられるようにしておけ。重要な情報を聞いた時に、いつでも自由にメモ出来る余裕があるわけじゃないからな」
「わ、分かりました……! 今後気を付けます……!」
慌ててメモとペンをしまうファラ。俺は続けて。
「もしどうしても情報が多すぎて覚えきれない時は、紙のメモじゃなくて記録出来るサポートアイテムを使え。俺はこの指輪を使っている」
俺は右手の人差し指にはめた指輪を見せる。地味な見た目のそれを見ながら、ファラは感心したように。
「な、なるほど、勉強になります……! あ、ちなみに質問なんですけど……」
「何だ?」
「よく壊れませんね、その指輪。ジークさんのパンチ、すっごく強いのに」
「知り合いのアイテムクリエイターに作らせた特注品だからな。ちょっとやそっとの衝撃じゃびくともしねえんだ」
「へえ……すごい方なんですね。ジークさんのパンチに耐えられる物が作れるなんて……」
「ただのアイテム馬鹿だ」
「へ……?」




