その26 よ、よろしくお願いします!
「ジークにならファラを任せられる。私はそう確信したよ」
「するな! 疑え! こんな脳筋野郎に大事な娘を任せるな!」
話を聞いていたウエイトレスが、
「自分で言ってて悲しくならないのかしら?」
と言っていたが無視する。いまはこのおっさんを説得することのほうが重要だ。
おっさんがジロリと俺を見た。
「すると何かね? 君はファラと一緒にいたくないと言うのかね? こんなに天使みたいに超絶可愛いのに」
「親馬鹿も大概にしろ! だいたい俺が勝ったんなら俺の条件を通せよ! あいつは平穏無事な日常を過ごすべきだ!」
ファラが息を飲んでいた。何かしら文句を思っているだろうが、無視することにする。
「なるほど、それが君の主張か。大事な女性だからこそ、安全な場所にいてほしいと」
「いやなんか勘違いしてるぞ! 恋人みたいな言い方をするな!」
全然違えし!
「だが、君が拒否したとしても、ファラは君の後をついていくだろうな。私にはもうそれを引き止める資格も権利もない」
「あるだろ! 大いに! 引き止めろよ! 大事な娘なんだろうが!」
ウエイトレスが、
「なんか二人の立場、逆じゃない? これじゃあどっちが父親だか」
と少し呆れていた。うっせえ! とにかくここで認めるわけにはいかね……。
「そんなに言うのなら、これならどうかね? 娘が冒険者になることはもう、父親である私の公認だから変えられない。だから、ジークには娘の護衛を務めてほしい」
「は……?」
ファラが、
「お父さん⁉」
と声を上げた。頭の整理が追いつかない俺におっさんが続ける。
「いわば、私が個人的に依頼するクエスト、みたいなものだな。期間はそうだな、娘が冒険者をやめる時までかな」
「待……」
俺に言わせる隙を与えずに、おっさんは。
「もちろん、報酬は弾む。大事な娘を守ってもらうのだから当然だな。これなら娘を安心して冒険者に出来るし、君もがっぽり稼げる、娘も目的を達成出来る。三者三両得でウィンウィンだろう?」
「…………っ」
ファラがもう一度、
「お父さん!」
と言った。今度は嬉しそうな響きを込もらせて。
そんな彼女に、俺はキッとした鋭い目を投げる。ファラがびくりとした。
俺は怒気をはらんだ声音で彼女に尋ねる。
「……お前に聞く。お前は本当に諦める気はないのか? 無理矢理にでも俺の後をついてくるつもりか? 死ぬかもしれないんだぞ? あるいは死んだほうがマシだと思えるようなことが起きるかもしれないんだぞ? それを受け入れるだけの覚悟がお前にあるか?」
「……っ……」
ファラの身体がびくりとした。
「もし自分なら何とかなるだとか、軽い気持ちで冒険者になるつもりなら……」
やめといたほうがいい。
俺がそう言おうとした時、ファラが身を乗り出すように言った。
「軽い気持ちじゃありません……!」
「…………!」
「冒険者としての話はお父さんから聞いています。その上で、私は冒険者になりたいんです。そして……」
ファラは勇気を振り絞るように。
「ジークさんと一緒に冒険して、ジークさんと同じ経験を共有したいんです!」
「…………⁉ …………っ」
彼女は何かを勘違いしているんだ。昨日、あの婚約破棄の現場に割って入った俺に対して、何かしら憧れに似た勘違いを。
俺はそんな英雄みたいな奴じゃないのに。そのことは俺自身がよく分かっている。
だがしかし。彼女の決意は本物で、いまの俺に折ることは出来ないらしい。
……だったら……せめて……。
俺は行き場をなくした怒りをぶつけるように、カウンターテーブルに拳を振り下ろした。轟音とともにテーブルにデカい穴が開く。
俺以外のその場にいる全員が驚きの顔をする中、俺はファラに言った。
「……いいだろう。お前の我が儘に付き合ってやる。お前の身の安全は、俺が絶対に守ってやる」
「……っ」
俺の気迫に、ファラは何度目になるか分からない息を飲んだ。そして。
「よ、よろしくお願いします!」
緊張した面持ちでそう答えた。




