その20 『吹き飛ばし』
「さて。それじゃあ可愛い愛娘の平和を守る為に、パパが一肌脱いじゃうぞ」
そんな親馬鹿発言をしてファラ父が俺へと飛び出してくる。おいおいこいつ本当に貴族かよ⁉ 一流の冒険者レベルの身体能力じゃねえか!
「ほいっと」
「く……っ」
おっさんが振り抜く拳を、とっさに首を横に傾けることでぎりぎり避ける。拳圧のせいか、俺の頬に一筋の切り傷が出来た。
「ほいほいほいっ」
立て続けにパンチが飛んでくる。くそっ、ふざけんなよなっ! 俺は辛うじて避け続けてはいるが、上着の至る所には頬と同じように裂け目が出来ていっていた。
「中々やるね。いや、私の腕が落ちたのかな」
「くそがっ!」
お返しに俺も拳を繰り出すが、それは難なくおっさんの手のひらで受け止められてしまった。衝撃が風圧となって周囲へと駆けていく。
「ふむ。良い拳だ。だが何故スキルを使わないのかね?」
「てめえみてえなおっさんなんかスキルがなくても充分だからだよ!」
「……なるほど」
おっさんの手のひらに淡い光が宿る。さっきと同じスキル発動の光だ。俺は慌てて拳を離して飛び退こうとするが。
「遅い。私のスキルは空気すら吹き飛ばせる」
直後、おっさんの手のひらから光をまとった半透明の球体が放たれて、俺の腹へと直撃する。が……は……っ⁉
俺は堪らず数メートル吹き飛ばされるが、なんとか地面に手をつけて急停止させると、その場でバック転するようにして地面に足を着けた。
「がっ、がはっ⁉」
「ほう。流石に空気をぶつけただけじゃ、その程度にしかならないか」
ふざけやがって……! その程度でこんなに痛てえのかよ! いや、空気を介していたからこそ、腕を地面にめり込ませることなく停止出来たのか。
だがしかし、これで奴のスキルについて分かってきた。
「はっ! てめーのスキルは『吹き飛ばし』で、発動条件は『身体に触れていること』か!」
「ご名答。いや、これだけ分かりやすいのに分からなかったら、むしろ駄目か」
突然始まった殴り合いに、道にいた奴らはびっくりしているばかりだ。中には巻き添えを喰わないように逃げている奴もいるが。
「さて。私のスキルを紹介したのだから、今度は君のスキルを教えてもらおうかな? ちゃんと娘を守り抜けるスキルなのかをね」
「…………」
対人戦闘におけるスキル情報の有無は、勝敗に直結する可能性が高い。スキルを知ることで対策が可能になり、またスキルを知られないことで不意討ちや奇襲が出来るからだ。
しかし、そうだな、こいつを諦めさせる為には敢えて言っといたほうがいいだろう。
「期待しているとこ悪いが、俺はノースキルなんでね」
「ノースキル……?」
おっさんの目がきょとんとした。本気で予想外だったんだろう。




