その19 お、お父さん⁉
「ま、待ってください、ジークさん……っ」
なおも呼び止めようとするファラの声。だが俺は無視し続ける。この店ももう来れないかもな。どんどん行ける店が減っていきやがる。
そして俺が入口の取っ手に手を掛けた時、不意にその近くのボックス席に座っていた客が立ち上がりながら。
「……ふむ。心意気は良し。だが実力の程はどうかな?」
帽子を目深にかぶっていたそいつが、いきなり俺へと上段蹴りを放ってくる。
「……⁉」
俺はとっさに腕を頭の横に構えて、その上段蹴りを防御した。驚いたのは俺も同じだが、ファラやウエイトレス、店長もまた各々驚愕した顔をしていた。
ぱさり……蹴りの勢いによって帽子が床に落ち、そいつの顔が露わになる。そいつは精悍な顔つきをした壮年の男だった。
「お、お父さん⁉」
「お父さん⁉」
ファラが叫び、そんな彼女の言葉にウエイトレスも心底びっくりした声を出す。無論、俺も驚いていた。
お父さんだって⁉ すっげー面倒くさくなる予感がぷんぷんしやがるぜ、うへぇ。
蹴りの姿勢のまま、つまりは一本立ちのままでファラの親父が彼女に笑いかけた。
「わはは、びっくりしたかい? ファラのことが気になって後を尾けてきてしまったんだ」
「な、へ、え……?」
想像していなかった事態に、ファラは目をぐるぐるさせて混乱の極みになっているようだった。
「わはは、混乱しているファラも可愛いねえ」
そんな親馬鹿発言をしてから、ファラの親父は俺へと視線を戻す。
「ジーク=フニールさんだったかな。君の実力を確かめさせてもらおうか」
言うと同時に、俺がガードしているおっさんの足に淡い光が宿った。これは……スキルの発動の光だ。
「君はどこまで吹き飛ぶかな?」
その瞬間、俺の身体は横に吹き飛び、すぐそばにあった入口ドアを粉々に壊しながら外へと飛び出していく。
「く……っそ……!」
なんでこういつもいつもトラブルに巻き込まれるかね! 俺はとっさに拳を地面へとめり込ませて、それ以上吹き飛ばされないように急ブレーキを掛ける。
痛ってーっ! 腕が折れそうなくらい痛いが、鍛えていたおかげでなんとか折れずに済んだ。地面に足を着けて、腕を引き抜く。
「ほう……まさか自身のスキルを使わずに肉体だけで対処するとはねえ。そんな人物は君が初めてだよ」
壊れた入口から姿を現しながらファラ父が言ってくる。その後ろではウエイトレスが、
「……またお店が壊されたぁ……絶対あいつに請求してやるぅ……」
と不穏なことを言っていた。いやこれに関しては俺は一ミリも悪くねえだろ。