その17 お願い
俺はファラに先を促した。
「そのことじゃないなら、何ですか?」
「あの、実はですね、ジークさんに折り入ってお願いがありまして……」
「はあ、お願い……?」
「わ、私を……」
何故だか分からないがウエイトレスと店長、及びいま店内にいる数少ない客達までもが緊張した面持ちになっていた。ウエイトレスに至っては持っていた銀盆で口元を隠して、なんかハラハラしているし。
そんな周りの様子には気付いていないように、ファラは言った。
「私をジークさんの冒険に同行させてください……っ」
「…………、はい?」
思わず俺は呆気に取られていた。周りの客も店長もウエイトレスもなんか肩透かしを喰らったような様子だった。だから何であんたらまでそんなんなってんだよ。
「実は私、子供の頃から冒険者に憧れていて、大きくなったら色々な所を旅したいと思っていたんです」
相変わらずファラは周りの様子には気付いていないようだ。
「でもいままでは婚約者がいた手前、そんな自分勝手なことは出来ないと思っていました。親の期待を裏切ってしまうと分かっていましたから……」
「はあ……」
それはつまり。
「昨日婚約破棄されたから、これを良い機会として冒険者になってみようってことですか……?」
「はい。つきましては……」
「しかし、親御さんは反対してるんじゃないですか? 冒険者とか普通に危ないし、いつ死んでもおかしくないですから」
「両親にも同じことを言われました。貴族の娘が冒険者なんて危なすぎる。大事な娘にそんなことをさせるわけにはいかない、って」
そりゃそうだ。
「だから私言ったんです。もの凄く強い人とパーティーを組めば文句ないでしょうって。それこそ元婚約者だった彼以上に強い人ならって」
ん? あれ? 何だか雲行きが怪しくなってきやがったぞ。
「えーと? まさかと思いますけど……」
「だから、つきましてはジークさん、私の家族に会ってその実力を示していただけませんか? お願いします! 私の夢を叶えてください!」
やっぱり!
「な、何で俺が⁉ パーティー組むなら他に適任がたくさんいるでしょう⁉」
「私、他に強い人とか知りませんし、知らない方相手だと緊張してしまって……こんなこと頼めるのジークさんしかいないんですっ」
「いや俺も昨日会ったばかりですけどね⁉」
「お願いしますっ、ジークさんじゃないと駄目なんです! 父もジークさんに会いたがってました、婚約者の彼を病院送りにした奴に一言言いたいことがあるって」
「それ俺をぶっ飛ばすつもりじゃないですか⁉」
娘の婚約者の男と喧嘩して、しかも大事な娘が冒険者になる原因になったんだから……そりゃぶちギレて当然だわな。