その15 え? 俺?
「いらっしゃいま……あ、また来た」
開口一番ウエイトレスにそんなことを言われてしまう。笑顔だったのに真顔になったし。
「酷くないですか、その対応」
「隙間風が寒いんですよねー、いままでは快適だったのに何ででしょうねー?」
「それはマジですんません」
カウンターにいた店長が彼女を見る。彼女がまた営業スマイルに戻った。
「それではお客様、こちらのカウンター席へどうぞ」
「いや空いてるんだし、ボックス席の方が……」
「ガッシャーンガラガラー」
窓が割れる音の声真似。また割るつもりかと言いたいらしい。
「カウンター席でお願いします」
「こちらへどーぞー」
彼女に案内されてカウンター席へと向かった時、そこには既に一人の客がいた。おや、あの背中には見覚えが。その人物が顔を向けて挨拶してくる。
「こ、こんにちは……」
ファラだった。
「おや、奇遇ですね。また会うなんて。もしかしてよく来るんですか?」
「いや、あの、その……」
しどろもどろになるファラ。代弁するようにウエイトレスが言ってくる。
「お昼からいるんですよ。誰かを待っていたみたいで」
「る、ルーマさん……っ⁉」
ほうほう。
「友達と待ち合わせしてたんですか? でもお昼はとっくに過ぎてますし、遅刻ですかね?」
「「…………」」
「あれ? 違うんですか?」
真顔になったウエイトレスが聞いてくる。
「ご注文は決まりましたか、お客様?」
「あ、いま決めます。えーっと……」
「今日のおすすめはライザードですよ。良い豆が入荷されたばかりでして」
「あ、じゃあそ……」
「はい。ライザード一つ入りましたー。超絶苦いのをお願いしまーす」
「いや苦すぎるのは……」
「美味しいですよ」
にっこり。何故だろう、笑顔なのに怖いのは。
「……それでお願いします……」
「ご注文ありがとうございますー」
俺何か怒られるようなことしたか? してたわ、こんちくしょうっ。
コーヒーが届くまでの時間、俺は暇になる。あいにく本は持ってきていないし、いつもは窓から外を眺めているからなあ。可愛い子がいないかどうかとか、目の保養として。
手持ち無沙汰になった時間、俺は頬杖をついてカウンター内の棚に並んでいる豆の入った容器を眺めている。レッドリバー、ライザード、カルマ、アロン、他には……。
「あ、あの……っ」
ボーっとしながらそれらを見ていると、隣で声がした。ファラが店長やウエイトレスに注文しようとしているのだろう。
「あのっ、ジークさん……っ」
え? 俺?