その136 どう思う?
とりあえず毒も酸も魔物もないことを確認し終えたので、俺は一リットルの瓶を取り出して泉水を汲み始めた。ファラが聞いてくる。
「……でも、今回は水を汲むクエストなんですから、依頼者のかたもギルドも毒とかはないことを承知しているのではないですか?」
「まあな」
「まあなって……」
「俺は万が一の危険性を考えただけさ。他の奴らが最後にここで水を汲んでから今日までの間に、水質や周辺環境が変わっている可能性はあるからな。この洞窟内には魔物がかなりいるようだし」
「…………」
「ここは洞窟だ。ギルドやレノは俺達がここに来ていることを知っているから、帰りが遅ければ様子を確認しにはくるだろう。だがもしも万が一のことが起きた場合、すぐには助けは来ないし、助けを呼びにいくのも難しい」
「それは……」
「数分で終わるような確認を怠ったせいで、窮地に立たされるとか死んでも死にきれねえからな。ファラは無駄だと思うか?」
「…………」
一拍の間。ファラは答えた。
「いえ、無駄だと思いません。それにジークさんは、私が初めてのダンジョン探索だから、あえてこのような確認方法があることを教えてくれたんですよね?」
俺はにやりとした。
「それも正解。本当は解毒剤も応急手当アイテムも持っているから、ちょっとやそっとの毒や酸くらいなら処置出来たんだ。この確認は、あくまでそれらのアイテムの予備がなかったときのための方法ってわけさ」
「…………」
俺の真意を知って、ファラは少し脱力したようだった。それを教えるために、わざわざ時間と手間を割いたのだから、当然だろう。
一つ目の瓶を満タンにして収納アイテムにしまうと、二つ目の瓶を取り出した。それにも泉水を汲みながら、時間潰しも兼ねてファラに話しかける。
「ところで、ファラはこのクエスト、どう思う?」
「どう、とは……?」
「洞窟の魔物が近寄ってこない、魔物避けの効能がある泉の水の採集……いったいこの水は何に使われると思う?」
「……普通に考えれば、魔物避けのアイテムの作成に使うのだと思います」
わりとすぐに答えたということは、ファラもそういうふうに考えていたということだ。
「ジークさんは別のことに使うのだと思っているのですか?」
「いや、俺もファラと同意見だ。この水自体はそういうふうに使うんだろうな」
「……なら、何が気になっているんですか?」
もう数日一緒にいて、色々なクエストや事件をともにしたからだろう、ファラは俺の意図をある程度予測出来るようになっているらしい。