その134 泉
「とにかく、なにかが落ちていても不用意に拾おうとするなってことだ。奴らは警戒している相手には、正体を現すことは少ないからな」
「分かりました」
そのとき、カタツムリ型の魔物が数体出現する。じめじめと湿気の多い洞窟だから、カタツムリ型の魔物にとっては過ごしやすいんだろう、知らんけど。
「出たぞ。奴らの殻は硬い。殻じゃなくて本体か、もしくは殻の中身を狙うんだ」
「分かりました」
「まあ俺は殻ごとぶっ壊すがな」
「…………、それが出来るのはジークさんだけでは?」
感心と少しの呆れを含ませるようにファラが言う。昨日の一件で、彼女との関係が気まずくなるかと不安だったが、そんなことはないようだった。
それに対して、少しだけ安心している自分がいる。あるいは、もしかしたら、いままでと同じように接しようと、彼女も努めているのかもしれないが。
それはいまは置いておいて。
「行くぞ。ファラは援護を頼む」
「はい!」
俺が飛び出して魔物の一体の殻をぶち壊す。俺の攻撃の隙を突いて、別の魔物が反撃してくるが、そいつらをファラが弓矢とスキルを使って仕留めていく。
そしてカタツムリ魔物を倒し終わったあとで、今度はコウモリ型の魔物が頭上から襲いかかってきた。
「ジークさん!」
「俺なら大丈夫だ」
その襲撃を回避しながら。
「こいつらは素早く空を飛べる代わりに、地上での行動は遅い。翼を撃ち抜くんだ」
「分かりました」
ファラが弓を引き、矢を放つ。矢は空中で無数に分裂し、大量のコウモリ魔物へと向かっていく。
『分身射撃』による大量狙撃、および擬似的な命中精度の向上。ファラの奴、自分のスキルの使い方が分かってきたみたいだな。
まあ、大量の矢は俺にも向かってきているわけだが。それはほれ、俺のことを信じているってことだろう、たぶん。
そうして、俺とファラは次々と出てくる魔物を倒しながら、洞窟の奥へと進んでいく。
「スキルの使い方が上手くなったな、ファラ。まあ、俺ごと矢の雨に巻き込んでいるけど」
「す、すみません。ジークさんなら避けたり防げると思って……」
「ああ、その通りだ。つまり俺はファラに信用されてるってわけだ。この程度で怪我したり死んだりしないってな」
「……!」
「その信用に応えねえとな。これからも頼むぜ、ファラ」
「はいっ!」
やがて視界の先に目的の泉が見えてくる。不思議なことにその泉の水は淡く光っていて、ランタンがなくても暗い周囲を照らしていた。
「……光ってますね。この辺りだけ魔物もいませんし」
ファラの言う通り、泉の周囲には魔物がいなかった。それまで出現していた魔物達も、泉の周りには近付こうとしていない。