その133 洞窟
「さて、そんじゃあこの洞窟のなかにあるっていう泉の水を取ってくるか」
「はい」
翌日の午前、俺とファラは街から馬で一時間ほど行った場所にある洞窟へとやってきていた。周りには岩山が広がっていて、こんな場所でもたくましく生えていた木立のそばに馬を置いておく。
「木につないでおかないのですか?」
「魔物が出現する地域だからな。木につないでおいて、魔物に襲われて逃げられずに死んじまったらっていう危険性がある」
「あ……」
「一応、この馬は借りてきたものだが、口笛を吹けばやってくるようにしつけてあるって言っていたからな。まあ最悪歩いて帰ればいいし」
「……そうですね」
ファラは洞窟のほうを向くと。
「馬は一緒には入れない、ですね。馬車はもちろんですけど」
「ああ、レノの言っていた通りだな」
乗ってきた馬は一頭であり、俺が手綱を握って、ファラが後ろに相乗りして、ここまで来た。二人も乗せて走って疲れたと思う馬だったが、いまは木立のそばに生えている雑草を食んでいた。
「それより行くぞ。ランクは低いらしいが、魔物も出るみたいだから気を付けろよ」
「コウモリ型とかスライム型とかですよね」
「それとゴブリンとか虫型とか、キノコ型とかもいるらしい」
「けっこういますね」
「だからダンジョンだ」
俺達はランタン型のアイテムで明かりを灯しながら進んでいく。さすが洞窟だけあって、地面はでこぼこしていて歩きにくいことこの上ない。
「一応注意しておくが、宝箱みたいなのがあっても不用意に開けるなよ」
「こんなところに宝箱があるんですか?」
「大昔の人間がこういうところに高価なものを隠してたりしてるんだ。ただし、たいていは盗賊が盗んできた盗品だったりするがな」
「それって、勝手にちょうだいしていいんですか?」
盗品だとするなら、それを自分のものにするのはどうかと思っているんだろう。
「俺自身はどうかと思ってる。まあ、元の持ち主に返却するのは非常に難しいから、ありがたくもらっていく奴もいるがな」
レノとか。うっきうきで開けやがるからな、あいつ。
「だが、俺が注意しているのは盗品かもしれないってことじゃない。そういう宝箱に擬態して、不用意に近付いた冒険者を襲う魔物がいるんだ」
「聞いたことがあります。ミミックですよね」
「ああ。最近は新種も見つかって、壺や袋、剣や盾とかのアイテムそのものに化ける奴もいるらしい」
「アイテムそのものにまで……」
それぞれツボックやフクロック、ソドックやタテックとかって呼ばれている。化けたアイテムの頭文字とミミックという言葉を合わせたネーミングだが。