その130 アドバイスっぽいこと
「こほん、あー……とにかくだ、ファラはまだ未熟だから無理に生け捕りにしようとはせずに、普通に狩ることを伝えたかったわけだ」
冷えた場を取りなすようにそう説明するが、彼女は依然心配そうにしている。なので、俺は蹴られた右手をぷらぷらしたりグーパーしたりして骨折していないことを示す。
「ほら、右手なら大丈夫だから、もう心配すんな」
「はあ……」
俺は息を一つついてから。
「良い機会だから一応言っておくけどな。心配してくれんのは素直にうれしいしありがたいと思ってる。だが心配性が過ぎるのは、当人にとってはうっとうしく感じることもあるから気を付けろ。ファラだって、あの父親がいちいち出張ってきたら困るだろ?」
「……っ」
数日前、ファラ父がファラを心配してカフェにやってきていたことを思い出したのだろう。彼女はそんな、はっとしたようにしたあと反省するように。
「す、すみません、今後気を付けます……」
どうやら、彼女の心配性は父親譲りなのかもしれないな。母親に似たのなら、オカルト好きで自由奔放な言動や行動をしていただろうから。
ファラは取り繕うようにして、俺に言ってくる。
「け、けどすごいですね。アルミラージの角を掴むなんて。けっこう速かったのに……」
「なんだ、忘れたのか? 何日か前に、ファラと模擬戦したときに撃ってきた矢を素手で掴んだだろ」
「あ……」
「あれと同じ理屈だ。軌道が直線で読みやすいなら、掴むのは簡単だ」
「……それが出来るのは、ジークさんだからだと思いますよ」
「あー、レノもそう言うかもな」
あいつはあいつで俺のことを『さすが脳筋』とか、褒めてるのか馬鹿にしてるのか分からないことを言うだろうな。
俺はアルミラージを入れたケージを持ち上げながら。
「とりあえず、こいつはあの岩の近くに置いとこう。いい目印になるし」
「はい」
視界の先にある岩へと歩きながら、隣を歩くファラに言う。
「それと、一応アドバイスっぽいことを言っておこうと思うが」
「なんですか?」
「状況にもよるが、動く相手に矢を命中させるときは、『分身射撃』を使ったほうが良いかもな」
「『分身射撃』を、ですか……?」
そうだ、と俺は続ける。
「『分身射撃』で矢の数を増やせば、そのぶん命中する確率が高くなる。目標が動く方向に増やしたりしてな」
「あ……確かにそうですね……」
「下水道のシャケのときも、このアルミラージも、そうしていれば矢を当てられていただろう。まあ、アルミラージのほうはともかく、シャケのほうは結果的には当てなくて良かったかもしれんが」
「……分かりました、今後は状況を見て、使い分けていきます」
「ああ。たとえ目標物そのものに当てられなくても、影に当てることが出来れば『影縛り』で動きを封じられるしな。この前の俺みたいに。まあそれもデメリットを考慮しつつ、状況を見て判断してくれ」
「……了解です」