その13 グーパン
建物の二階くらいの高さだったから、ストッパーがなくても何とか着地に成功出来た。まあ痛いっちゃ痛いけどな。そうして俺のことを、正確には腕に抱く我が子を見上げている親猪へと、その子猪を返してやる。
「プモオオ!」
「ブモオオ!」
感動の再会というべきか。二匹は一度俺へと振り向いて、ジッと見つめた後。
「プモオ」
「ブモオ」
まるで、助けてくれてありがとう、とでも言うようにそれぞれ鳴いて、そして背を向けて森の奥へと去っていった。いやあ、大した怪我がなくて良かった良かった。
そう思いながら、俺は身を低くするようにしてこの場を去ろうとしている毛むくじゃらの男に声を掛ける。
「おい」
「は、はいぃ⁉」
そいつは心底びっくりしたように直立した。俺は向こうで倒れているスキンヘッドの男に親指を向けながら。
「あいつも連れてけよ。まだ生きてるかは知らねえが、生きてんなら手当てくらいしねえとな」
「は、はい、ただいま!」
そいつへと駆け寄っていく男に、俺も近付いていき。
「それと、これは一応念の為に聞くんだが、猪を囮に使ったのはお前らだな」
「あ、いや、それは、えーっと……」
ぼさぼさの自分の頭に手を当てて、男の目線が魚の如く泳いでいる。俺に嘘を見抜くスキルはないが、それでも分かる。ていうか分かりやすい野郎だな。
「有効な作戦だとしても、無関係の奴を巻き込むのはいただけねえな」
「あ、あはは、仰る通りですよねぇ……」
「ってなわけで、これはムカついた分だ」
「あいたぁッ⁉」
ボゴッ。俺はそいつの顔面にグーパンした。そいつが地面に転がり痛そうに顔を押さえている。
「手加減はした。それくらいで済んで良かったと思え。それと……」
俺は血を吸われているスキンヘッドを見下ろす。ゼヒューゼヒューと虫の息が聞こえるから、まだ生きているらしい。
「本当はそいつも殴りてえが、いまはやめておいてやる。罰なら、俺のグーパン以上のを受けたみてえだからな」
死体蹴りをする趣味は俺にはない。いや死んでねえけど。いまこいつにグーパンしようものなら、本当にあの世にいっちまうだろうしな。
俺はそいつらに背を向けた。
「じゃあな。もう二度と会わねえことを祈ってるぜ」
そう言って、俺は巨大コウモリの死体へと歩いていく。最後の問題は……。
「……どうやって運ぶか、だな」
流石に収納アイテムには入らなそうだし……首だけ持っていくのも、それはそれで気持ち悪い。
「しゃあない。背負ってくか」
街のギルドまでそうやって運ぶことに決めた。後になって後悔した。