その129 生け捕り
俺達とアルミラージの距離は、およそ一メートルくらい離れていた。しかしアルミラージはその距離を一跳びで縮めて、俺達へと迫ってくる。
アルミラージの鋭い角の先端が俺の胸元を狙って跳んでくる。何もしなければ、その角は胸骨や大胸筋を貫いて、そのなかに収まっている心臓を破壊するだろう。
「ジークさん⁉」
ファラが声を上げる。俺が避ければ、後ろにいる彼女の身体を掠めるかもしれない。まあ、避ける必要も防ぐ必要もなかったんだが。
「よっと!」
アルミラージの角が俺の胸に突き刺さろうとする直前で、俺は素早く右手を動かして、その角を掴み取っていた。
「ふう」
うーうー、だの、くーくー、だの、そんな鳴き声をアルミラージが発しているなか、俺は手足をばたつかせるそいつを地面に押さえつける。
「ファラ、ケージを。このままなかに入れる」
「あ……」
呆気に取られていた彼女は俺の言葉に我に返ると、慌てて収納空間からケージを取り出して俺のそばにやってくる。
「ケージの入口を開けたら、ファラは少し離れてろ。アルミラージの脚力は半端ないからな、うっかりでも蹴られたら、普通に骨折や内臓が破裂する。最悪そのまま死ぬこともある」
「わ、分かりました」
注意に従ってファラが少し離れたのを確認してから、俺はアルミラージをケージのなかに入れていく。しかし入口を閉める直前に前腕を蹴られてしまい。
「痛てっ」
「ジークさん……⁉」
「心配すんな。これくらいなら大丈夫だ。鍛えているからな」
「……っ」
痛みを我慢しながら、アルミラージをケージのなかに収容する。アルミラージは脱出しようと暴れていたが、やがて諦めたのか疲れたのかおとなしくなった。
「とまあ、これがアルミラージを生け捕りにする場合の方法だ。はっきり言って普通に難しいから、殺したほうが楽だしてっとり早い」
「…………」
ファラは感心したような、あるいは呆けているような様子でこちらを見ていた。俺からアルミラージに視線を移し、再び俺へと……アルミラージに蹴られた俺の腕へと目を向ける。心配そうな声で。
「折れてませんか、腕……?」
「さっきもいったが、俺は鍛えているから大丈夫だ。だてに脳筋って呼ばれてねえ、って誰が脳筋だっ」
「…………」
心配する彼女を和ませようと思ってセルフノリツッコミしたのだが……盛大に滑ってしまった。
恥ずい……レノだったら大爆笑していたんだろうが、まああいつとファラでは笑いの感性が違うということだろう。レノよりもファラのほうが真面目で、こういう場面ではふざけるよりも心配のほうが勝るくらい優しいということだろうな。