その127 突き放す言葉
外壁の門を出てから、目的の狩り場に向かうまでの間、俺達は世間話をし続ける。
「あれ? でも、キャラバンとか旅馬車とかは普通に外を走ってますよね?」
「普通は整備された道を通るからな。その道なら魔物が寄ってこないように定期的に見回りされてるし、キャラバンや馬車のなかには護衛を雇うやつもいるし」
あとそれと……俺は付け足す。
「魔物が近寄ってくるのを抑制するアイテムとかもあるらしい。高いから俺は使ったことねえけど」
「そんなアイテムがあるんですか……?」
「いろいろ条件はあるみたいだぜ。時間経過とかの理由で効果は切れるし、全部の魔物に効くわけじゃねえから、万能ってわけじゃねえらしいけどな」
「そうなんですか」
そんな会話をしているうちに、目的の狩り場に到着した。全体としては草原という感じだが、丈の長い草むらが点在し、人間大の岩もちらほらと見える場所だった。
「アルミラージって、角の生えているウサギですよね? 鬼みたいに」
「まーな。あんま強くないし、人間のほうから襲わない限りはおとなしい魔物だ。今回は狩っちまうがな」
「……ちょっと、可哀想ですね……」
ファラは優しいから、相手が魔物でもおとなしい奴なら同情しちまうんだろう。それは彼女の美徳でもあるが。
「依頼だからな。ファラだって、牛や豚や鶏を食べるだろ。野菜も果物も食べるし、飲んでいる飲み物や呼吸している空気中にだって、目に見えない微生物はいる」
「それは……」
「俺だって肉を食うし、野菜を食うし、水を飲むし、呼吸をしている。しねーと死んじまうからな。俺達はそうやって生きてる。他の生き物を絶対に殺したくないのなら、存在ごと消えてなくなるしかねえ」
「…………」
「可哀想だと思うことを否定はしねーが、それとこれとは別だと割り切るんだな。今回の依頼はただ殺すために殺すんじゃなくて、アイテムの素材にしたり食肉にしたり、生活のために狩るんだ」
そうやって、俺達のこの世界は回っている。俺達は生きていられて、生活出来ている。
「教科書的で偽善者ぶったことしか言えねーが、だからこそ俺達はそいつらに感謝して、命を狩り取っていくしかねーんだ。それが嫌って言うなら、いますぐ帰れ。お前に冒険者はやっぱり向いてねえ」
突き放す言葉。ファラにはきつい言い方になるが、事実だから仕方がない。これでついてこれないなら、どーせどこかのタイミングで無理になる。
そしてファラは俺を見て、言った。
「……やります。可哀想だと思ったのは確かですが、ジークさんの言うことも確かだと思います。私は彼らの命を、狩り取ります」
決心した顔つきで言うファラ。…………。俺は顔を前に戻しながら、ぶっきらぼうに聞こえるように返事した。
「……おう。ま、あんま気負いすぎないようにな」
「はい。分かってます」
……そんならいいけどな。