その126 『アルミラージの素材収集』
「わりー、そういやまだ昼メシ食ってなかったんだ。洗濯のあとぼーっとしててな」
普段のファラなら、くすりと笑ったことだろう。お嬢様のように上品に、もしくは可愛らしくはにかんで。
しかしいまの彼女は目を丸くしていた……さっき下水道で話していたことと合わせて、俺に呆れて……。
「……くすっ……」
え……?
「あ、すみません、つい……」
綻んだ顔つきを、手を振りながら慌てて戻して。それから彼女は提案してくる。
「お昼ご飯、食べに行きませんか? いつものカフェで。もうだいぶ遅いですけど……」
「……そうだな……そうするか……」
俺は一度部屋のなかに戻り上着を羽織ると、外に出て、ファラとともに馬車でいつものカフェに向かった。
馬車のなかで、俺達はとりとめもない話を交わしていた。いつものように。さっきまでのことなんて、忘れたように、最初からなかったかのように。
「カフェでは何を食べますか?」
「俺は軽めにスパゲティーかな。ファラは?」
「私もジークさんと同じものにします。そのあとはどうします?」
「どうって?」
「夕方までまだ時間もありますから、簡単なクエストでも受けませんか? 近くのフィールドに出没する魔物退治とか」
「そういや、今日は魔物退治をするはずだったのに、してなかったな。……そうするか」
「はい。そうしましょう」
そして俺達はいつものカフェで遅めの昼メシを終えると、今度はギルドに向かってクエストを受ける。
ちょっかいを出してくるレノにツッコミを入れながら、受けたクエストは『アルミラージの素材収集』だった。アルミラージの角は各種アイテムの素材になり、肉は食料として調理出来る……そのアルミラージを街の外の草原で狩ってくるクエストだ。
「目標収集数は十匹だけどさー、ま、今日の夕方がタイムリミットだし、最低でも一匹集めてくれればその分の報酬は払うからー」
すぐそばの受付嬢ではなく、何故か俺の肩に腕を置くレノが説明してくる。暇なのかこいつ?
「報酬を全額欲しいなら、ちゃんと十匹集めろってこったな」
「そーゆーこと。んじゃ、頑張ってねー」
いつものポニテではなく、珍しく髪を下ろしているレノが言う。シャワー後でまだ髪が乾ききっていないからだろう。
その後、俺とファラは馬車で街の外壁にある門番の詰め所まで向かう。アルミラージが出る場所は比較的街の近くではあるが、一応念のために馬車はここに待機させることにした。
「アルミラージと戦うからですか?」
「まーな。アルミラージは弱めの魔物で温厚なほうだが、万が一馬車が襲われたら大変だからな」