その123 あほすぎる
「冒険者としての俺の答えは、ファラのことをパーティーの仲間として、一人の冒険者として対等に接することだった」
ファラと一緒にパーティーを組むことになった直接の理由は、ファラの父親に、ファラの護衛として雇われたからだ。しかし、それはあくまできっかけに過ぎない。
たとえどんな理由が始まりだったとしても、一緒にパーティーを組んだ以上、仲間になった以上、俺はファラのことを対等に接してきたつもりだ。
「確かにファラはまだ冒険者として未熟だし、実力だって、俺からすればまだまだだ」
だがな。
「それでもお前は、未熟なりに頑張っている、自分に出来ることをひたむきにやっている。たとえいまは未熟だとしても、確実に成長していると俺は思う」
むしろ、精神面というか、街や人々の平和を願う気持ちに関しては、俺よりもちゃんとしているだろう。俺はそこまで考えられていなかった、あくまで自分の範囲でしか物事を捉えていなかった。
「それが、冒険者としての、俺がファラに思っていることだ」
「…………」
俺の言葉を聞いて……ファラはなんとも形容しがたい顔つきになっていた。真面目に受け止める気持ちとか、ちょっとだけ嬉しい感じとか、あるいは未熟や実力不足だと言われてやっぱり悔しい気持ちとか……それらの感情がぐるぐると混ざったような、複雑な顔つきだ。
ややあって、ようやくといった感じで、ファラが口を開く。さっきよりも、いっそう緊張した声音になって。
「……冒険者としてのジークさんの考えは分かりました……それで、その、ジークさんの個人としての気持ちは……なんなんですか……?」
「…………」
レノ達はまだ来ていない。下水道を歩く足音も聞こえてこない。あいつのことだ、何かと理由をつけて時間稼ぎをしているのだろう。ゆっくり慎重に、焦らず事故の起こらないように進んでいこう……とかなんとか、そんなことを言って。
ついさっきまでは、俺が自分の気持ちを話す決心がつくまでは、早くレノ達が到着してくれと思っていた。
だが、いまは違う。いまはその逆で、まだ来るなと思っている。俺は、俺が思っているこの気持ちを正直に伝えるまで、誰にも邪魔されたくないし、邪魔させない。
「俺の、個人としての、ファラに対する気持ちは……」
「…………」
ファラの喉が、上下に動く。ごくり……そんな、唾を飲み込む擬音が聞こえてきそうなほどに。
ファラが緊張しているのと同じように、俺もまた緊張していた。俺自身の答えだから、俺の心中ではすでに分かっていることだというのに、それを口にするのが、言葉として伝えるのが、非常に勇気のいるものだとは。
だが伝える。伝えなければいけない。それが彼女に対する、誠実な態度だと思うから。
そして俺は言った。
「『分からない』、だ」
「…………、……へ……?」
ファラが呆気に取られた顔になった。意外過ぎる言葉に、一瞬目が丸くなった。まさにぽかんといった様子だった。
自分でも、自分があほすぎると思う。