その121 どうする……?
「詳しく説明すんのは面倒だから、実際に見て確認してくれ。とにかく保護には成功している」
『んー、まー、ジークがそー言うのならー。んじゃぁ、入る前に渡しといた発信器を起動しとくれ、二人と合流したいから』
俺はファラに目配せする。うなずいた彼女が上着のポケットから小さなビー玉のような発信器アイテムを取り出して、その表面を軽く押した。
「押したぞ」
『おっけぇ、こっちのウィンドウにも二人の位置が出たよ。いまから向かうねぇ……あ、そうそう』
レノは思い出したように。
『一応もう一回聞いとくけど、本当に他には魔物はいなかったのかい?』
「ああ、少なくとも俺達が見回った限りはな。幸いなことに」
『うん、幸いだね。油断は出来ないけど。まあ明日以降、今度は複数の冒険者やギルド職員で調査隊を編成して、きっちり調べて回るけどねー』
おい。
「おい。そんなら今日俺達が調べなくてもよかったじゃねえか」
『なははー。君達は先遣隊ってやつだよー。んじゃ、ファラちゃんによろしくねー』
そこで通信が終了する。まったく、あの女、二度手間なことを……。
まあ俺達が先に調べたことで魔物の危険度が減少して、ランクの低い冒険者やギルド職員でも大丈夫そうかもという判断が出来たからだろうが……。それにしても、なんだかなあ……。
俺は左手を下ろしながら。
「これからレノ達が来るそうだ。それまでここで待機するぞ」
「……はい……」
ファラの声は心なしか小さい。調査やシャケの保護でスキルを使って疲れたんだろう。
手持ち無沙汰になったこともあり、そこはかとなく、俺は水中を泳ぐシャケのほうを見やる。おーおー、元気に泳いでやがる、矢にぶつかんなよー。
と、そのとき、ファラが声を掛けてきた。
「……レノさんは、私に気を遣ってくれたんです……」
ん?
俺はファラのほうを見る。彼女は水中にいるシャケを見ながら。
「ジークさんの様子が変でしたから。私がそれを聞けるように、私達をここに送り込んで、二人だけで話が出来るようにしてくれたんです。ここなら他に誰もいませんから」
「…………」
いまに至って、俺は気付いた。レノはファラによろしくと言っていた。その意味が……。
「ジークさんの口振りから、レノさんは、まだ私達がちゃんと話していないことを察したんでしょう。だから、これが最後のチャンスだと思います」
ファラが俺のほうを見た。
「教えてください、ジークさん。昨夜、マイと何があったんですか? 『コアトルと戦った』、それだけじゃあないんでしょう?」
「…………」
彼女は真剣な顔でこちらを見つめている。俺は……どうする……?
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