その115 ジー……
至極当然のことのようにファラは言葉を紡ぐ。
「私はこの調査には意義があると思いますし、この調査に参加出来ることを誇りにも思います。何もなければそれで良し、何かあったら解決して街とここに住む人々の生活を守れる……とても大事なクエストだと私は思っています」
「…………」
「もちろん、いまの私に出来ることは少なくて、ジークさんのお邪魔になってしまうこともあるかもしれません。その時は正直にそう言ってください、邪魔にならない場所に移動しますので、そこで出来る限りのことをしますので……」
「いや……」
俺は思わず彼女から顔を逸らしてしまう。下水道の中は暗いのに、何故か彼女を眩しく感じてしまったから。
「ファラは邪魔にはならないと思うぜ……少なくともいまは邪魔になっていない、むしろ俺の方が……」
「え……」
「悪い、謝るべきは俺の方だった。正直、俺はこのクエストを面倒だと思ってた、くせーし服も汚れるし、この中で魔物と遭遇して戦うとか嫌だなって」
魔物と戦えば少なからず服は汚れるものだが、下水道という場所のイメージで、普段よりも戦いたくないと思っていた。
「俺はファラみたいに、この下水道の調査をそこまで大事なことじゃないと思ってた」
「…………、いまはどうなんですか?」
『思ってた』は過去形だ。現在の俺の考えは。
「ファラのおかげだな、いまは重要なクエストだと思えている。すげーよファラは、最初からそんなふうに考えていたんだから」
いままでは俺がファラに色々と教えていたのに、まさかそのファラに教えられるなんてな。
ファラは持っていたマップを顔の近くに寄せていた。まるで表情を隠すように。俺が褒めたから照れているのかもしれない、どうせこの暗さならよく分からないのに。
「い、いえ、私は当然だと思ったことを言ったまででして……」
「その当然が無意識に普通に出来たから、すげーんだよ」
それはつまり、俺はすごくなかったということだ。
「わ、私はすごくなんか……本当は私は、ジー……」
何か言おうとした彼女が、不意にそこで言葉を区切る。俺は疑問符を浮かべながら彼女を見て。
「じー?」
「~~~~、な、なんでもありませんっ!」
彼女が声を上げて、それが暗い下水道に反響した。
じー? まさかあの黒い虫のことか? 確かに下水道には出そうだな、ネズミとかも。
そんなこんなで、俺達は下水道の探索を進めていく。レノからは魔物が巣を作りやすいと予想される場所……ある程度の広さがあり、食料や水分の調達がしやすい場所……を重点的に調べるように言われていたので、そういう場所に行き当たったら他よりも注意深く様子を見ていた。
そうやって俺達は入ってきた入口から順々に調べていった箇所を、下水道のマップに印を付けていく。何もなかったらバツ印を付けるということにしたのだが……現状、マップにはバツ印だけが付いていた。