その114 『大事な下水道』
そして現在、俺とファラは下水道の内部へと潜入している。入口のマンホールまでは下水道の業者やレノも立ち合い、業者がマンホールを開けてくれたが、その後の実地調査に関しては俺とファラの二人だけということになった。
「いやだってさぁ、業者の人を危険に晒すわけにはいかないじゃん? 二人と違って一般人なんだし?」
とはレノの弁だ。ここに入る前に言っていたことだった。
「お前は来ないんだよな」
「当ったり前じゃーん。面倒なことは君達に任せるんだからねぇ」
俺達に依頼されたこととはいえ、言い方ってもんがあるだろうと思った。そうして俺とファラは業者から下水道のマップを受け取り、手にはサポートアイテムのランタンを提げて、暗くじめじめとしていて異臭を放つ下水道へと歩を進めたのだ。
「予想していたことではあるが、やっぱり広いな、下水道」
「ですね。私も初めて入りましたけど……」
「俺もだ」
下水道の業者以外で入る奴なんて、そうそういないとは思うがな。蓋をしているマンホールだって重いわけだし。
「そういえば、ジークさんの家ってこの近くなんでしたっけ」
「ああ、昨夜コアトルが出てきたマンホールから入ったわけだからな」
必然的に俺ん家の近くの下水道を探索していることになる。近所の地下はこんなんなってたんだな。
それはともかく、昨夜の話題に触れるのは危ないかもしれない。マイとどんな話をしたのかとか、そんなことを聞かれるかもしれず、また誤魔化すのに成功出来るかどうか。
なので、俺は自然な感じで話題を変えることにする。
「なんか、悪いな」
「え、何がですか?」
歩きながらマップを見ていたファラがこちらに向く。
「レノに言われたからとはいえ、下水道の調査なんかに付き合わせちまって。せっかく街の外で魔物退治出来るかもしれなかったのにな」
ファラは憧れの冒険者になったというのに、いままでずっと街の中でのクエストやトラブルに対処してばかりだった。街の外に出て、色んな地域を見て回ったり、ダンジョンに潜ったりするのを想像していただろうに。
「このクエストが終わったら、今度こそ冒険者らしいことをした方がいいよな」
魔物退治やダンジョン探索、未踏地域の調査、などなど……いまのファラには難しいことの方が多いが、出来ることから経験を積ませられていったらなと思う。
「ファラだって、こんな下水道の調査なんかじゃなくて、新しく発見されたばからの前人未踏のダンジョンを探索したいと思って……」
「そんなことありませんよ」
俺の言葉に被せるようにしてファラが言ってくる。
「『下水道なんか』じゃなくて、『大事な下水道』じゃないですか。この下水道や水処理の施設が完備されているからこそ、私達はいまの生活が出来ているんですから」