その113 今日の俺達のクエストは
「……勝てたのは、本当に偶然なんだ……お前がなんと言おうとな……」
「…………、まあ、ジークがそう言い張るのは勝手だけどさ。仮に複数戦だったら、偶然勝てたってのもあるかもしんないけど」
「さっきと言ってること違えじゃねえか」
「なはは」
レノの顔付きが崩れる。真面目だった雰囲気はどこへやら、またいつものひょうひょうとした雰囲気に戻っていた。
「ま、話を戻すけどさ。そんなに調査したくないなら別にいーよ、他のパーティーに頼むからさ。あー、もったいないなぁ、報酬をたくさん出してもらうつもりだったのになぁ」
ちらちらとこちらを見ながらレノが言うが、俺は仏頂面を崩さなかった。俺はともかく、ファラを連れていくのはどうかと思ったからだ。強い魔物が出るかもしんねえし、下水道を進むから服だって汚れたり異臭も付いたり……。
「ジークさん」
その時、ファラが口を開いた。それまで黙って聞いていただけだったが、彼女が自分の意見を言ってくる。
「調べましょう。私達で。魔物がいたら出来る限り討伐して、原因も取り除けたら取り除いて」
「ファラ……」「ファラちゃん」
俺とレノがファラを見る。ファラの目は強く、興味本意で言ってるわけでないことは分かった。
「だがファラ、下水道だぞ。服が汚れたら……」
「魔物討伐のクエストをするなら、どうせ汚れます。洗えばいいだけですから。それより街の平和を守ることが大事です」
俺の言葉にファラは当たり前だと言わんばかりに答える。
「強い魔物だって出るかもしんねえし……」
「ジークさんと私なら大丈夫です。絶対に勝てます」
「あのなあ」
その信用はどこから来てるんだよ。
「勝てない敵が出てきたらどうすんだよ」
「その時は……」
ファラには意地悪に聞こえたかもしれない……こんな問答なんかせずに、さっさと調査に行けばいいのに、と。
続けざまに聞いた俺の問いに、しかしファラは俺を見ながら答えた。
「逃げましょう、素直に、もちろんジークさんも一緒に」
ファラがウィンクする。
レノがひゅうと短い口笛を吹いた。……やれやれ……なんか図太くなった気がするなあ、ファラの奴。最初会った頃は本当にお嬢様って感じだったのに。
俺は諦めたように、もしくは呆れや感心の意味も少し込めながら、溜め息を吐いた。
「分かった、行くか、下水道の調査」
「はいっ」
ファラが元気よく返事をし、レノもまた口元を綻ばせた。
「ファラちゃんに甘いのはジークも一緒だねぇ」
「お前やファラの父親と同じみたいに言うな。それよりちゃんと報酬は弾めよ」
「あいあーい。ま、決めるのは私じゃないけどー」
おい。
そんなこんなで、今日の俺達のクエストは下水道調査になった。出来れば何事もなく楽に終わってほしいもんだ。
つーか、最近街の外に出てない気がすんなあ。