その111 一番面倒なこと
「なるほろねぇ、事情は分かったよ、ジーク君」
どこぞの探偵みたいにレノが気取って言ってくる。なんで少しえらそうなんだ、こいつ。
「んじゃまぁ、今日の君達二人のクエストはそれでいいね?」
「え……?」「は?」
いきなりのレノの言葉に、ファラと俺は同時に疑問の声を漏らした。レノは、なははと笑いながら。
「いやぁ、こーいう話を聞いた以上、ギルドとしてはその下水道の調査に向かう必要があるからねぇ。もしかしたらコアトル以外にも魔物が巣くっているかもしれないし」
昨夜出会ったのは確かにコアトル一匹だけだったが、レノの言う通り他にも魔物がいる可能性は否定出来ない。だがしかし……。
「なんでその調査を俺達がしなくちゃいけねえんだ? お前も言ったように、ギルド側で調べろよ」
「んー……、こーいう魔物の調査の場合、ギルドがする対応としては概ね二種類あるんだなぁ」
俺の指摘に、レノは柄にもなく説明口調で。
「一つは、いま言ったようにギルドの職員が調べる場合。生息していると推定される魔物のランクが低い時なんかは、クエスト発注の手間やコストを抑える為に、ギルド側が直接調べるのさ」
レノの言いたいことが何となく察せられた。ある意味、昨夜俺がコアトルを倒したせいだとも言えるが……。
「もう一つが、ギルドが調査のクエストを発注して、適切な冒険者に調べてもらうケース。推定される生息魔物のランクが高い時や、ギルドの職員だけじゃあ対処出来ないと判断された時なんかは、そうなる」
レノが俺を見た。にやりと、面白いものを見るような目付きで。
「コアトルのランクは最低でもAランクはある。一匹だけだったとはいえ、倒しちゃったんだろ、ジークぅ?」
「…………」
俺は口元をへの字に曲げていた。昨夜の話をレノにもしたのは、失敗だったなと後悔していた。
「それで、俺とファラに下水道の調査をしろってか。他の魔物が巣くっているかどうか」
「もし明確な原因があったら、それを取り除くこともついでに頼むよ。下水道の立ち入り許可とかクエストの発注手続きとか、面倒なことは全部やっとくからさ」
「一番面倒なこと押し付けてんじゃねえか」
「なははぁ」
レノが頭の後ろに手を当てる。見慣れた誤魔化し笑いをしやがって。
「まぁまぁいいじゃないか、どーせ今日は魔物の討伐クエストを受けるつもりだったんだろぅ? ちょーどいーじゃん」
「なんでお前は今日に限って仕事熱心なんだよ。いつもサボってるくせに」
「そう見えてるとかひどいなぁー、私はこー見えてもいつも仕事はちゃんとやってる方だよぉ」
見えねえから言ってんだよ。