その110 談話スペース
俺は向こうにある談話スペースの、綺麗に清掃されてはいるがどことなくくたびれているソファーとテーブルを親指で示しながら。
「ちゃんと話そうとすると長くなる、向こうのソファーに座りながら話そうか」
「「…………」」
ファラが緊張した顔でうなずき、レノがにやにやと面白そうな起きたと言いたげな顔をする。俺は一度、後ろにいた受付嬢に振り返り。
「というわけで、クエストを受けるのは二人に話をしてからだ。それまで待っててくれ」
「はあ……こちらとしては別に構いませんが……」
受付嬢はレノに視線を向けた。レノはぱちりとウィンクを返すと。
「話が終わるまで、君は他の人の受付をしていてくりゃれ。詳しいことはわたしゃが聞いておくからさ」
「……分かりました。レノさんが仰るなら」
「そんじゃあ二人とも、あっちの談話スペースまで行こーかー」
……いまのレノと受付嬢の会話……表面的には普通の会話のように聞こえたが、なんか、裏の意味が含まれているような気がするな。二人とも、そういう含みのある言い方だった。俺の気のせいという可能性もあるが。
そうして俺達は談話スペースのソファへと向かう。偶然ではあるが談話スペースには他の奴らの姿は見えず、これなら話しやすくて助かる。
銀色の灰皿が載った小さな丸テーブルを挟んで、俺の対面にファラとレノが座る。ファラはまさにお嬢様らしく礼儀正しく、レノは深々と座って足も組んでいた。どっかのボスかお前は。
「んで、ジークぅ、街ん中に魔物が出たってのは、いったい全体どういうことなんだい?」
「これから話すっての。そう急かすな」
どこかふてぶてしい態度のレノと緊張気味に居住まいを正すファラに、俺は昨夜起きた出来事をかいつまんで話していった。……コアトルとの戦闘後に、マイから言われた意味深な言葉を省いて……。
話を終えた時、ファラはびっくりしたように目を開いて、レノはたまげたというようにひゅーと口笛を吹いていた。さっきまでのファラの疑いに解答を与えるように、俺は駄目押しとばかりに言葉を続ける。
「まあ、んなわけで、色々と考えてたってわけだ。なんで本来なら荒野とか山岳地帯とか、そんな険しい場所にしかいないはずのコアトルが、街の中に現れたのか? しかもよりにもよってマンホールの下……下水道から出てきやがったのかってな」
「……なるほど……。だからカフェであんなぼーっとしてたんですね」
「……まーな」
そんなにぼーっとしてたのか、俺……。いや確かにぼーっとしてたけども。