その11 それはどうかな
「クソッ当たらねえ!」
「思ったより素早いぞ!」
またも人の声。これはフリークエストだ、他の奴らがあのコウモリを狙っていても不思議ではない。だが……。
「なんかいい技はねえのか⁉」
「任せろ! 『スネークロープ』!」
森の中から何本かのロープの束がコウモリへと向かっていく。それらは蛇のようにうねうねと動き、まるで自分の意志があるかのようにコウモリを追っていた。
「ギギャッ!」
避けても迫ってくるロープに嫌気が差したのか、コウモリは空中で方向転換すると、ロープが飛んできたほうへと猛スピードで向かっていく。
「「⁉」」
そこにいたのは二人のむさいおっさんだった。一人はスキンヘッドで、もう一人は顎髭や口髭が伸びまくった毛むくじゃら。
コウモリのスピードはあまりにも速く、二人は逃げることもままならず襲われてしまう。最初に攻撃を受けたのはスキンヘッドであり、コウモリに抱き付かれたそいつは首元に牙を突き立てられて血を吸われてしまう。
「ギャアッ! た、助け……」
そいつの顔が見る見るうちに青白くなりやつれていく。
「ヒイッ⁉」
それを眼前で見た相方は悲鳴を上げて逃げ出した。だがコウモリは逃すまいとして、いま吸っていた奴を放り捨てて毛むくじゃらへと迫っていく。
「ヒイイッ⁉ だ、誰か助け……ッ!」
その叫びも空しく、男はコウモリに頭を鷲掴みにされると地面へとぶつけられるように倒されてしまう。翼と一体化しているその手の力は凄まじいらしく、男は抵抗を試みるも歯が立っていない。
「ギギャア……!」
コウモリがまるで人間がするようなニヤリとした顔になる。実際に笑ったのかは分からない。だが少なくとも俺にはそう見えた。
そして救いを懇願している男へとコウモリが鋭利な牙を突き立てようとした時、俺は飛び出すようにそいつの背後へと迫って。
「ギッ……⁉」
「喰らいやがれ!」
そいつのデケえ頭へと回し蹴りを叩き込んだ。
「ギッ、ギャッ……⁉」
まるで水切り石のように地面を跳ねながらコウモリが吹き飛んでいく。いまので倒せたとは思えない。呆気に取られている男を無視して、俺はコウモリへと再度猛スピードで迫り、追撃しようとする。
「ギギィッ!」
やはり生きていた。コウモリは即座に翼を広げると、高速度で頭上の木々の間へと飛び逃げていく。
「ギギャア……!」
空を飛べない普通の人間にはここまで来れまい……! コウモリはそう言っているかのように俺を見下ろした。……が。
「それはどうかな」
俺は近くにあった太い木の幹に足裏をつけると、鍛えた脚力でもってその幹を駆け上がっていった。