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109/138

その109 事実だけで


「まさかファラちゃん、あいつと喧嘩でもしたのかい?」

「いえ、そんなことは……あ」


 レノの言葉に何か思い当たる節でもあったのか、ファラはこちらへと近寄ってくる。俺は何か嫌な予感がしたので、さっさと受付嬢に声を掛けた。


「このギルドに登録しているジーク=フニールだ。今日は魔物の討伐クエストを受けたい。なんか……」


 なんかあるか? そう聞こうとした俺の袖を、ファラが軽く摘まむように引っ張る。


「ジークさん、やっぱりマイと何かあったんですね。昨夜出掛けたマイと偶然出会って、その時に何かあったんでしょう? マイ、疲れたってこぼしてましたし、またスキルを使って戦ったんじゃあ……」


 ほんとう、なんでこういう時だけ勘が鋭いんだろうな。冒険者じゃなくて、名探偵の方が天職なんじゃないか?

 ファラの推測を否定することは簡単だ。『違う。そんなことはない』……たったそれだけを言えばいいんだから。


 だがしかし……ファラはそれでは納得しないだろう。彼女の背後には興味深そうにレノもにやにやとしている。下手に否定して、二人に余計に首を突っ込まれたら、もっと面倒くさいことになるだろう。

 だから……はぁ、と俺は息をつきながら、ファラへと振り返る。悩みや懸念をぴたりと当てられたという雰囲気をまといながら。


「……確かに、俺は昨夜マイと偶然会った。俺が食料の買い出しに出た帰りに、あいつが本屋に入るのを見てな」

「それだけですか……?」


 俺はもう一度息をつく。絶対に演技だとばれないように。


「……あいつがスキルを使って戦ったってのも、なんで分かんだよって思うくらい、当たってる」

「……っ」

「おっと、だからって早とちりすんなよ。確かに俺達は戦ったが、俺とマイが『敵対して』戦ったわけじゃない」

「え……?」

「むしろその逆だ。俺とマイは『協力して』戦ったんだ。昨夜、街ん中にいきなり魔物が出てきたんでな」

「っ⁉」


 ファラがびっくりし、俺の背後にいる受付嬢も驚いているようだった。俺の話を聞いていたレノが近付いてきて、ファラの肩に手を回しながら言ってくる。


「なになに? どういうことさ? このかんわいいレノちゃんに話してよー」


 自分で可愛いとか言うな。あとチャラ男みたいにファラの肩に手を回すな。チャラ女かお前は……チャラ女だったわ……。

 しかし、二人の興味の誘導は成功したようだ。俺は嘘は言っていない、本当のことしか言っていない……事実だけで、二人の追及を見事にかわしきってみせようか。



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