その106 気持ち
「ちょっと待て。言っている意味がさっぱり分からんぞ? どうしてそんなことを……?」
俺の問いに、マイは直接は答えなかった。
「わたしはお嬢様の気持ちを、なんとなくだが察している。だから、そうした。それが正しいことだと思ったからだ」
「…………」
ファラの、気持ち……。
「これ以上先のことを言うのは、お嬢様の抱いているであろう気持ちをわたしが言うのは、間違っている。だから、言わない。後はお嬢様と、ジーク=フニール、お前次第の問題だから」
…………。
「……マイ、お前は……」
「地上が見えてきた。落とすぞ」
「え……?」
と、声を漏らした瞬間に箒が消えて、俺は空中を落ちていく。高さにすると家屋の二、三階くらいの高さで、叫び声を上げるよりも先に身体は地面に着地……もとい激突していた。
「痛っつ……」
いくら俺が鍛えているからって、無茶苦茶だろ……骨折や大怪我をしなかったから良かったものの。
「いきなり落とすんじゃねーよ! 滅茶苦茶痛てーじゃねーか!」
「……痛いで済んでるお前だからやったんだ」
俺の文句にマイは素っ気なく返すと、自分が乗る箒の先端をファラの屋敷がある方へと向ける。
「……これだけは言っておくぞ、ジーク=フニール。お前がお嬢様のことをどう思っているかは知らないし、知るつもりもないが、お嬢様のことを悲しませることだけは許さないからな。その時は、わたしがお前を成敗してやる。覚悟しておけ」
最後にそう言い捨てると、マイは星が瞬く夜空を飛んでいった。
「…………、ファラに暴力は駄目って釘を刺されただろうが」
俺はそれだけをつぶやくと、彼女が消え去っていった夜空を眺め続けていた。
さっきまでの戦いが嘘のように、夜の街には静寂が戻っていた。
…………。