第9話 男二人で水着選んでんじゃねぇよ!
読んで頂きありがとうございます!
なつちゃんと遊びに行く約束をした日の放課後。二人で近くのショッピングモールに来ていた。
「なつちゃん、これとかどう?」
「ん?白のワンピースかぁ、私には可愛すぎるかな。零着てみたら?」
「ええー。似合うと思うんだけどなぁ」
なつちゃんみたいな可愛い子と遊べるなんて、この世界に来れて良かったなぁ。服屋を見た後もアクセサリーショップとかも寄って充実した時間を過ごしていた。大きいモールの中を歩いていると突然声を掛けられた。
「あれ……?零さんと安藤さん?」
誰だ!?俺となつちゃんのデートを邪魔するやつは!
「わ!相沢くんに蒼真くん!偶然だね、二人も買い物に来てたんだね」
「うん。夏服と……あと水着を見に来たんだ」
水着……えっ?男二人で来たの?嘘でしょ?一人で来いよ。
「ご、ごめんね女子いたら選びにくいよね、零、行こっか」
「いやいや、こっちから声掛けたんだし気にしないで、それより中々決められなくてさ……二つの内どっちがいいか見て貰えないかな?」
ええ……何が悲しくて男の水着ファッションショーを見なきゃならないんだ……
「俺もちょっと迷っててな……女子の意見も聞きたいんだがいいか?」
蒼真くんもかよ!もう自分の好きな柄選べよ!男の水着にそんなレパートリーないだろうが!はぁ……まあ適当に選んでやってさっさと此処から逃げるか……
試着室のカーテンの中に二人が入って行き、その前で俺となつちゃんは待たされていた。
「なつちゃん、なんでソワソワしてるの?」
「えっ!?逆に平気なの?男性用水着店の中に女だけで居るの辛くない?周りのお客さんからキモイとか思われてないかなーとか考えちゃわない?」
「いや……別に……」
いや、俺が女物の水着店の中にいたらソワソワするだろうし、なつちゃんの反応は普通なのかもな。
「逆に零はなんでそんな余裕なの……」
数分待っているとカーテンが開いた。蒼真くんは普通の海パンスタイルの水着で相沢くんは上にラッシュガードを着ていた。
「どうかな?」
「どうって……まぁ、いいんじゃないかな?って蒼真くんはなんで顔赤くしてんの……?」
「思い切って海パン選んだけど、見られたら恥ずくて……俺もラッシュガード着とけばよかった」
キレていいか?そういう反応は地味系だった女の子が意中の相手に振り向いてもらう為に大胆な水着を選んでしまった時にする表情なんだよ!お前は堂々としてろよ!
「何が恥ずかしいのさ……身体も引き締まってて恥ずべき点なんて無いでしょうが」
「うぇっ!?」
「れ、れい?そういうのは心の中に留めておいた方が……」
「零さんは……筋肉好き……」
え?なんか不味いこと言ったか?さっきよりも蒼真くんが赤くなってるし、なつちゃんは焦ってるし、相沢くんもなんかショックを受けてる。なんなんだ……
その後相沢くんは改めて選び直すと言っていたので、男二人とは別れて、なつちゃんと二人なれた。
「零は男の子の筋肉はあった方がいい派なの?」
「ガリガリとか太ってるよりかは鍛えてた方が良い……かな?」
そもそも男の筋肉があろうがなかろうが割とどうでもいいが。
「じゃあ蒼真くんとか結構タイプってこと!?あっ、でも来人くんもガタイ良いよね!」
タイプって……俺は女の子の方が好きなんだが……俺は「あの二人なんかより、なつちゃんの方がタイプだよ」といつものノリで言おうとしたが口を噤んだ。
10年以上の付き合いのある幼なじみとして仲良くしてくれているのに、無理に迫って嫌われたくないな。なつちゃんにはあんまり変な事言わないようにしよう。
「男の話はこれくらいにしてさ、最後にフードコートでアイスでも食べてかない?違う味頼んだら1口トレードしよ?」
「えっ!そんな恋人みたいなことするのー?あはは!いいけど、恥ずかしーなー」
「ごめん、ごめん、冗談だよ。日もくれてきたしそろそろ行こ?」
幼なじみだから断りにくいとかだったら悪いし、なつちゃんには節度を持って行かないとな。でも、沙那ちゃんとか美佳ちゃんとかは普通に断ってくるから遠慮の必要はないだろ。
「う、うん。行こっか」
ーーーーー
「はーーー。びっくりした」
「ね。零さんが大胆なこと言うなんてビックリしたよ」
ラッシュガードを捲り上げて蒼真くんと自分の腹筋を見比べるが溜め息が出る。一切鍛えてないからしょうがないが雲泥の差だ。
「僕も鍛えようかな……」
「雪村に見てもらうためにか?」
蒼真くんがニヤニヤとしながら僕のお腹をつついてきた。
「違うし!健康の為だよ!」
正直、蒼真くんにはバレているが、気になるあの子のために鍛えますなんて、ちょっと恥ずかしくて言いきれなかった。
「でもあの感じだと、特段鍛えているのが好きって訳でもないだろ。相沢は相沢の良いとこ磨いた方がいんじゃないか?」
くっ、零さんに褒められたからって余裕ぶってるな!いくら友達だからって譲るような真似しないからね!
ちなみに筋トレは三日も続かなかった。
ーーーーー
「いやー眼福眼福」
「沙那は蒼真くん狙いだもんね」
「美佳だってあの腹筋は目の保養だったでしょ?」
放課後に沙那と二人でショッピングモールに寄り道していたらたまたまクラスの男子二人と雪村、それと安藤の四人が男性用水着店に居るのを見かけて、見つからないように覗いていた。
「はぁ。でもあの水着が雪村に対して見せたものだったのが虚しいけどね」
「ちょっ、それは言わないでよ!いいもん今年の夏は何とかして蒼真くんと海に行くんだから!その時はあたしだけに見せてくれるでしょ?」
「来てくれるかな。沙那前に旅行に誘って断られてなかった?」
「うぐっ……た、確かに……」
カラオケの時みたいに皆で行くなら来てくれるかもしれないが、一対一じゃ警戒されて当然。この手は使いたくなかったけど仕方ないか……
「カラオケに行った時のメンバーの皆で行くなら来てくれるかもね」
「そっか!また零を使っておびき寄せればいっか!」
自分で言っといてなんだが虚しくなってくる。だってそんなやり方をしないと誘っても来てくれない時点で既に零に負けているんだから。
「ねっ美佳。あたし達が零に遅れを取ってるって思ってるでしょ?」
沙那は基本能天気だがこういうときはちょっとだけ鋭いと思う。
「こんなに男が少ないのに、相手とか周りの都合考えてたら何時になったても彼氏出来ないぞ?もっと自分を押し付けて行かないと!断られてもへこたれない!あたしみたいにさ!」
メンタル強いなぁ……私は断られるの怖くて誘ったことなんてなかったからな。でもおかげで勇気出たかも。
「相沢くんは私から誘う。ついでに零も」
「おっけ!そっちは任せたからね!」