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第6話 手作りクッキーは女の子から貰いたかったよ……

読んで頂きありがとうございます!



6月に入り雨が降る日が多くなった。学校に行くのが若干億劫になるが雨の日は嫌いじゃない。雨音や梅雨の時期に咲く花は風情があっていいものだ。


「ほんと、雨ばっかりで嫌になっちゃうよね」


しかし隣を歩くなつちゃんはそんな事ないらしい。


「私は好きだけどな、ほら、この花とか綺麗じゃない?紫陽花……だっけ?」


「その余裕が男にモテるのかな?」


「あはは、花を愛でるのにモテるとか関係無いでしょ」


学校に行くのも慣れてきたし、なつちゃんと一緒に学校に行かなくても大丈夫だが、可愛い子と一緒に登校できるのは嬉しいのでこの関係は続けてもらっている。


「あれ?零さんだ!おはよう。安藤さんもおはよう」


「おはよう、朝会うなんて珍しいね」


相沢くんと丁度出会ったので三人で学校に向かうことにした。目的地同じなのに別で行くのも変だしね。


「おはよう相沢くん……ってやば!朝のうちにやらないといけないことあったんだった!ごめん二人とも!先行くね!」


なつちゃんが慌てて駆け出した。宿題でもやり忘れたのかな?はぁ……可愛い女の子と二人で登校していたはずが野郎と二人きりになってしまった……相沢くんは悪い奴ではないがやっぱどうせなら可愛い子の隣歩きたいじゃん?


「そうだ、零さん。クッキー焼いたんだけどクラスじゃ受け取りにくいかもしれないから今の内に渡しとくね」


綺麗にラッピングされたクッキーの入った袋を手渡された。ぐぬぅ……嬉しいけど、こういうのは女の子から貰いたかったよ。だがせっかく作ってきてくれたのだから返すのも悪いか。


「ありがとう、あとで頂くよ」


相沢くんは嬉しそうに頷く。つくづく相沢くんが女の子だったら良かったのにと思う。


学校に着くと先に走って行った、なつちゃんが机に突っ伏していた。珍しいないつもは友達と話したり予習をしたりしているのだが。


「朝の用事は間に合ったの?」


「う、うん、全然余裕だったよ。走らなくても大丈夫だったかもな~」


ん?なんだか元気がないような気がする。もしかして……なつちゃんは相沢くんの事が気になっていたんじゃないか?俺と相沢くんが仲良さそうに見えて苦しくて逃げ出したんじゃないか!?なんてこった……この世界に来てなつちゃんには色々助けて貰ったのに恩を仇で返すような真似をしていたのか。


この世界の男がなんの努力もせずに男というだけでハーレムを作るのは頂けないが、ハーレム阻止のために友達の恋心を踏みにじるのはもっとダメだ。ここは俺がなつちゃんと相沢くんが仲良くなれるように動いてみるか。



「なつちゃんもう帰ったのか」


今日は一緒に帰ろうと思っていたのだが授業が終わってすぐ帰ってしまったようだ。しょうがない、俺も帰るか。


下駄箱まで行くと蒼真くんが壁に寄りかかってスマホをいじっていた。


「帰らないの?」


「雪村か。傘を忘れてな。晴れるのを待ってた」


「明日になっても止まないと思うよ」


確かさっきみた天気予報だとこの先1週間は止まなさそうだった。そもそも朝も雨が降っていたのになぜ傘を持っていないんだこいつは。だがいいことを思いついたぞ。


「この傘使いなよ」


「すまないな、えっと……傘は俺が持つからさ」


「?いや、コレ使って帰りな」


蒼真くんが、は?って顔をしている。相合傘でもすると思ったのか?だが安心したまえ蒼真くん。私には秘策があるのだ。持っていた傘を押し付けて、今まさに帰ろうとしていた美佳ちゃんに声をかける。


「傘無くなったから入れて」


「はぁ!?何が悲しくて女と相合傘しなくちゃなんないのよ!」


ありがとう蒼真くん。人助けしたことにより合法的に美少女と相合傘出来るぜ!


ポカンとしている蒼真くんを置いて嫌がる美佳ちゃんと駅まで一緒に行くことにした。


「というか、なんで蒼真くんと帰らなかったのよ、蒼真くんと相合傘したら良かったじゃない」


見ていたのか。生憎男と相合傘する趣味はないんでね。


「美佳ちゃんみたいな美少女と相合傘した方が100倍嬉しいからさ。それにほら、蒼真くんも1人で帰った方が気楽だろうし」


「ヒェッ……だ、だったら私も1人で帰りたかったんだけど!?」


そう言いつつも傘に入れてくれるあたり脈アリだなこれ。ツンツンしている子が本心では好意を寄せてくれるっていうのは、最早王道だよな。


「ほら、駅着いたわよ、ったく何の罰ゲームよ……」


「悪かったって。じゃあお詫びにそこのお店でスイーツ奢るからさ」


お詫びに見せかけて放課後デートに結びつけるこの流れ、完璧か?


「なんか目がギラついてて怖いから遠慮しとくわ……」


しまった!?ちょっと急ぎすぎたかもしれない。もうちょっと距離を縮めてからだったか……



ーーーーー


雪村から渡された傘を眺めていた。おかしいな……自然な流れで相合傘する予定だったんだが。いや、雪村なりの配慮だったのかもしれない。いくら仲が良くても男と女、俺が嫌な思いをするかもと思って傘をそのまま貸してくれたのだろう。


「雪村とだったら嫌な訳ないだろう……」


今まで女子と仲良くなろうと思ったことなど無かった。そう思う前に女子から寄ってきたからだ。だからイマイチどうすればいいのかが分からない。


カバンの中の折りたたみ傘を見下ろす。本当は持っていた。当たり前だ。朝も雨が降っていたのだから。


「はぁ……」


一緒に帰れなかったのが残念だ。同じ傘の下に入れば、今までよりも打ち解けて話せると思ったのだが、そう上手くは行かなかった。理由が無ければ一緒に帰ってはいけないなんて事はない。だが……俺から誘うのは恥ずかしい。だって貴方の事が気になりますって言ってるようなものじゃないか。


「俺も相沢くらい素直になれたらな」


相沢は良い奴だ。素直で性格もいい。お菓子作りが趣味で、今日の朝に雪村にクッキーを受け取って貰えたと喜んでいた。


まさか、この男女比の偏っている時代に1人の女子を取り合うことになるとはな。


1歩だけ外に出て雪村から借りた傘をさしてみる。


「俺も傘のお礼とか言って何か渡してみるか」



ーーーーー


「安藤さんちょっといいか?」


「そ、蒼真くん?珍しいね。どうしたの?」


男の子が私に声掛けてくるなんて珍しい。別に嫌いな訳じゃないけど緊張するなぁ。


「雪村の好きな物知らないか?」


ああ。零の事聞きに来たんだ。零は凄いな。クラスの男子皆から気に入られてるんだもん。クラスの女子皆、零の事羨ましいと思ってるよ。


「うーん。今までの零なら、この世の男全て……とか言ってたけど変わってからは分からないや」


幼い頃から一緒だった私の知っている零は、男に貪欲な面白い友人だった。だけど変わってからの好みとかは本当に知らない。零が変わったから惹かれているけど、まるで別人だから今まで一緒に過ごしたことすら覚えてないんじゃないかって錯覚する時があって寂しい気持ちになる時がある。


「そうか、ありがとう」


蒼真くんは一言お礼を言って自分の席に戻った。蒼真くんも相沢くんも他の男と比べたら凄いいい人だと思う。来人くんも丸くなっていい人になったと思う。


そんな人達から好意を寄せられてる友人に女の私が想いを伝えられるわけないでしょ。零は優しいから私に気を使って誰とも付き合わないとか言ったら最悪だ。親友の足を引っ張るような真似は絶対にしたくない。



だからこの気持ちは大切にしまっておくの。



ーーーーー


「あら、どうしたのそのクッキー。綺麗な包装ね」


「クラスの男が渡してきたの。母さん食べる?」


「んえええ!?零!あんたやるわね!私が食べるわけ無いでしょ!自分で大事に食べなさい!」


別に特別な意味がある訳じゃないだろうに。まあ母さんが要らないならいいか。


1口かじるとほんのりとした甘さが口の中に広がる。


……美味しいな。


ハッ!?きっとこの世界の女性を手作りのお菓子という餌で釣りハーレムを作ろうと計画しているに違いない。侮れないな相沢くん。




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