第3話 傲慢クソ男(仮)が現れた!
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俺にとっての学校初日が終わり、エロ本も無事売ってきたので、家でくつろいでいるとスマホに着信があった。スマホを見るとそこには安藤なつの名前が書いてある。
『 今日の零いったいどうしちゃったの!?』
「どうって、そんな変だった?」
まあ、確かに先週まで通ってたはずなのに自分の席が分からないのは不自然過ぎるか。
『 だって、相沢くんから誘われてたのに断って帰っちゃったじゃん!』
「お礼したいから来て欲しいって言われてたけど、お礼されるようなことしてないからね」
そっちだったか。何が悲しくて男と放課後デートしなくちゃならないんだ。勘弁してくれよ。
『 えー!もったいない!もったいないよ!勘違いでも誘われたら行くでしょ!というかいつもの零なら、クレープじゃなくて君を食べたいカナ?なんちゃて。くらい言って相手を後悔させるレベルの返ししてたでしょ!?』
えっ、この世界の零はおじさん構文みたいな喋り方してたの?嘘でしょ?
『 身なりも気使っちゃって、ホントどうしたの?』
「まともになったなら良くない?」
『 そうなんだけどさー、零は顔と声は良いから、本当に彼氏出来ちゃうんじゃない?』
嬉しくないお褒めの言葉だな……だけどなつから見ても結構良い感じに見えてるのか。
「私は彼氏いらないかな。彼氏に時間割かれるくらいなら、なつと遊んだりしたいし」
ちょっと痛かっただろうか。事実ではあるけど、なつに引かれたら嫌だな。
『 あの零が彼氏を要らないって言った……!?怖い!怖いよ!私の友達がおかしくなったよぉ……』
スルーされた。あわよくば流れで休日遊ぶ約束とかしたかったのに触れられなかった……
『 まぁそのうち治るか、じゃあねー』
静かになった自室で椅子に座りため息をついた。
どうすれば女の子と仲良くなれるのだろうか。俺だって放課後デートしたかった。でも男じゃなくて女の子としたかったの!はぁ。しょうがない今日はもう寝るか……
ーーーーー
私、安藤なつには仲の良い友達がいる。
親同士が知り合いで良く一緒に遊んでいた。高校も同じ所に入るくらい仲良しだ。
顔を隠すように伸ばした髪と姿勢と……あと男子へのセクハラ発言をどうにかすれば彼氏も出来るかもしれないが彼女は変わる気がないらしい。顔と声が良いばかりに残念だが、我が道を行く友人とテキトウに楽しく過ごす時間は居心地が良かった。
それがどうしたというのだろう。ある日を境に彼女は変わった。身だしなみもそうだが、何より落ち着いた雰囲気になり、セクハラ発言はおろか普通の女子なら食いつくような男子からの誘いを断っていた。
そして、私への扱いも前と違う。まるで私を気になっている男子かのように扱うのだ。
一緒に学校へ行く時、常に道路側歩くし、電車の中でも私を守るように立ってるし。話す時も私の話しやすいように聞いてくれるし、とにかく気遣ってくれているのだ。
要するに怖いのである。うん、怖い。モテなさすぎて人格崩壊した?前みたいにオススメのエロ本紹介してよ!道行く男がどういう性癖してるか予想して私に伝える遊びしてよ!
でも、何より怖いのは、変わってしまった零のことをちょっとイイかもって思っている自分自身が怖い。
手に持っていた小さい頃撮った零とのツーショット写真を引き出しにしまってベッドに身体を預けた。
「はぁー。チョロインかよ、私は」
男がどんどん減っていくこのご時世。他の女を出し抜いて男にアタックしなければ彼氏なんて出来ない。だから男からも女からも、あんな風に優しく気遣って接して貰ったことなんてなかった。
「友達にこんな感情抱くなんて……絶対嫌がられるよね……」
何度目か分からないため息をついて、布団に潜り込んだ。早く寝なきゃ、学校に行く前に少しだけ遠回りをしてあの子と一緒に学校に行くのだから寝坊なんて出来ない。
ーーーーー
学校に行き始めて5日目、今日は金曜日だ。
クラスの男四人中の二人、相沢くんと蒼真くんは毎日来ていたが、残り二人は見たことがなかった。しかし今日はクラスに入ると見たことがない男が座ってた。机に足を置いてふんぞり返ってる。なんか嫌な予感がするな……
「おい、そこの女。ジュース買ってこい」
「来人様!すぐに買ってきますね!」
なっ!?ロングヘアの良く似合う清楚系美人の遥ちゃんをお前呼ばわり……だと!?
遂に出会ってしまったか、相沢くんも蒼真くんも草食系ハーレム主人公タイプだったが。こいつは紛れもなく傲慢クソ男だ!!
「遥ちゃん、行かなくていいよ」
「えっ、でも」
貞操観念逆転世界では女性が自分の価値を低く見てしまうのは定番。しかしそこで俺が優しくそんなことないよって言ってあげれば好感度アップ間違いなし!
「君があんなやつのため……」
「俺様系って良くない?じゃ、私急いでるから!」
え???スキップしながら自販機の方に行ったんだが?あれ?合意の上でのプレイでしたか?
俺がその場で固まっていると傲慢クソ男(仮)に声を掛けられた。
「女に命令して悪いか?沢山居て暇そうにしてんだからジュースくらい買いに行かせても別にいいだろ」
「遥ちゃんはこの世に一人だよ。女とかいう括りで分けてんじゃねぇ」
「チッ。女のくせに……うるさいな。そもそもお前誰だ?見たことねぇ女だな」
やはりクソ野郎だな!あんな可愛い子を「そこの女」呼ばわりしてパシらせて悪びれもしないとは。
「零。雪村零」
「は……?ユキムラ……レイ?」
ん?傲慢クソ男が机から足をおろしたな。
「すんません。えぐい下ネタ言いながら寄ってくるのは勘弁してください」
ええ……?こんな逆転世界で傲慢に成り果てた俺様系みたいなのに恐れられる元の零って一体……
「いや、そんなことはしないけどさ。女呼ばわりしてないでクラスメイトの名前くらい覚えなよ。あとパシリにしない!」
「ひっ!覚えます!パシリにもしません!」
傲慢クソ男かと思ったが以外に聞き分けいいなコイツ。そうこうしている内に遥ちゃんが戻ってきた。
「来人様!買ってきました!」
「あ、ああ」
「お礼くらい言いなよ」
お礼の一言も言わずに受け取るのでお礼を言うように促すと焦ったように「ありがとう」と言っていた。
「遥ちゃん、もうパシリにされることないから安心してね」
「は?何してくれてるの?来人様との接点失っちゃうじゃん」
あれ?合意どころか喜んでたの?
「じゃあ今度から一緒に行ったらいいじゃん。ね?傲ま……間違った、来人くん」
「ああ、分かった。これからは誰か誘って行く」
来人の言葉を聞いた遥ちゃんは俺の手を取り腕がちぎれるほど振ってくる。
「ありがとう零!ナイスアシスト!!」
こんな男にくれてやるのは惜しいが遥ちゃんも来人くんのことがよっぽど好きなようだししょうがないな。
「さっそくだけど、雪村さん、いや姐さん購買行きませんか?」
「な……んで私?」
なんで俺!?話の流れ的に遥ちゃん誘えよ!ほら!遥ちゃんの顔みて!「は?」みたいな顔で固まってるから!
「いやぁ、俺生まれてこの方怒られるというか注意されたことなくて、今まで姐さんのことただの変態だと思ってたけど、男にもビシッと言える人だって知ってさ。姐さんのおかげで最近ちょっとやりすぎだったかなって気づけたんだよ。そんなヤツ他にいないし、おもしれー女だと思って」
遥ちゃんが鬼の様な形相でこっち見てるんだけど。嘘でしょ?俺TUEEEEな小説でも、もう少し惚れるまでステップ踏むよ?何がおもしれー女だよ。黙れよ。
俺は物凄い殺意を背中に感じながらその場から逃げ出すのだった。