第23話 十分恵まれている方だったのに……
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「よし!今日の帰りに相沢くん誘ってどっか行ってくる!」
休み時間に美佳ちゃんが突然、気合いを入れて立ち上がった。
「えー、相沢くんの所なんかに行かないでおくれよー」
「雪村は1人でエロ本でも読んでろ!」
引き留めようとしたが美佳ちゃんに一蹴されてしまった。今日の美佳ちゃんは何やら気合いが入っている。
「誘ってくるから邪魔しないで!」
そう言い放つと俺と沙那ちゃんの元を離れて相沢くんに声を掛けに行った。
「なんであんなに気合い入ってるの?」
「もう12月じゃん?クリスマスに男を連れている勝ち組の仲間入りしたいんだよー」
最近沙那ちゃんも美佳ちゃんもアプローチしているのを見かけないから、俺で満足してくれているのかと思い込んでいたが……諦めていなかったらしい。
「クリスマスは女子会したかったのに……」
「えー……女だけでって虚しくない?その会……っていうか、零こそ誰かと付き合わないの?クラスの男子なら誰でも選び放題じゃん?」
い、いらねー……というか選び放題って何さ。俺もお断りだが男子達からもお断りだろ。
「そんな嫌そうな顔しないでよー。というかあたし的には相沢くんとくっついて欲しいんだよね」
「あー……沙那ちゃんは蒼真くん狙いだもんね?私に乗り換えない?フリーだよ?」
「乗り換えないでーす。まぁ、理由としてはそんな感じかなー」
「でも沙那ちゃんの親友の美佳ちゃんが狙ってる人なのに、そんな事言っちゃっていいの~?」
沙那ちゃんをふざけて、肘で小突きながらからかうと、意外な反応を見せた。
「そんなこと言ってたら今どき恋人なんて作れないんだよ?」
不敵な笑みを浮かべながら、少し離れたところで一生懸命相沢くんと話す美佳ちゃんを見ていた。
いつもの沙那ちゃんとは違う雰囲気に息を飲む。
「実は仲悪かったりする……?」
「そんな訳ないじゃーん。めっちゃ仲良しだよ」
案外男の少ないこの世界の女同士の交友関係はこのくらいドライ?なのかもな……
「あ、美佳おかえりー、どうだった?」
「なんと、OK貰えたよ……!」
「えー!よかったじゃん!」
美佳ちゃんが嬉しそうに話す。前までなら邪魔しに行く所だが美佳ちゃんがこんなに嬉しそうにしていると、流石に気が引ける。
「やっぱり私と遊びに行ってくれたり……しない?」
「誰が男子と遊びに行く機会を捨ててまで、女子と遊びに行くのよ。諦めて」
まるで一人娘が結婚して家を出ていく時のような気持ちだ。いや、まぁ、子どもいたことないんだけど。
ーーーーー
正直、望み薄な誘いだ。
だって相沢くんは明らかに雪村に気があるし……でも雪村はその気がないみたいだし?当たって砕けろの精神で放課後寄り道を一緒にして欲しいと誘ってみるんだ。
雪村と沙那から離れて次の時間の教科書を取り出している相沢くんに声を掛けた。
「ねぇ相沢くん。今日の放課後暇だったりする?」
「ん?特に用事はない……かな」
声を掛けられた相沢くんはわざわざ手を止めてこっちを向いて答えてくれる。こういう細かいけど丁寧な所がいいんだよね。そもそも他の男子は答えてくれないような人も多い。
「じゃあさ。放課後寄り道しようと思うんだけど……どう?」
「うん、いいよ」
まさかの二つ返事でOK貰えた!もしかして雪村に愛想尽きたとか……?どちらにせよラッキーだ。もしかしたらクリスマスにデートしてそこで告白。恋人になっちゃうかも!?
放課後が楽しみなせいか、授業が三倍くらい長く感じる……秒針を睨みつけて終わる瞬間を今か今かと待ち構えた。
6限の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、週番が号令を掛ける。やっっっと終わったよ。
「あ、相沢くん、行こっか」
まだ人がほとんど残っている教室で、皆に見せつけるように誘う。我ながら少々性格が悪いが雪村のいつもの振る舞いを見ていると今更って感じだろう。
「そうだね……?」
廊下に出て歩き始めると相沢くんが急に立ち止まった。
「相沢くんどうしたの?」
「えっとー……北山さん?他の皆は?」
その言葉を聞いた瞬間。サッと血の気が引いた。相沢くんが二つ返事で了承してくれた理由を察してしまう。
「いや……私と、相沢くんの二人……だけで……」
声が震えて、途切れ途切れになってしまう。
相沢くんは、皆で寄り道するんだと勘違いしていた。
「あー……そうだったんだ……」
困ったような、少しガッカリしたような、そんな顔。
きっと、想い人の雪村がいなくて残念って思ってるんでしょ?
「いや、ごめんね、ちょっとだけ勘違いしていたみたい。大丈夫、行こうか」
普通の男子ならここでキレるか呆れるかして帰ってしまうのだろう。それをしないのが相沢くんだ。私みたいな女に対しても底なしに優しいんだ。でも……今は、そんな優しさはいらない。
「そんなに雪村がいいの?どこがそんなに魅力的に見えんの?」
「北山さん……?」
「男にがっつかないのがいいの?話しかけなければいいの?でも、だったらどうやって仲良くなれるの!?」
相沢くんは何も悪くないのに、勝手に期待して勝手に裏切られたと傷付いて、相沢くんに八つ当たりするという最悪な行動をしてしまった。
一言だけでも謝ってこの場を離れればいいのに、感情的になってしまった思考回路は冷静さを取り戻せない。
「それは……なんというか……」
こんなことを突然聞かれれば誰だって答えに困るに決まってるのに、まごついている相沢くんにイライラしてしまう。
「私じゃ、だめなの?雪村は幾ら相沢くんから好意を貰っても、気づかない。気づこうとしない!私だったらそんなことにはならない!」
啖呵を切るのなんてあまりしたことないせいで、はぁはぁと息が上がってしまう。
相沢くんは何も言わない。
でも無言の時間のお陰で少し頭が冷えた。
冷静さを取り戻せば取り戻すほど、自分がした事は取り返しのつかない事だったんじゃないかと、心臓が締め付けられる。
紛らわしい言い方で誘っておいて、突然キレて、あまつさえ相沢くんの想い人のことを貶すことまで言ってしまった。
雪村を通して相沢くん達と構築していた友達としての関係は終わってしまうだろう。
思えば男子と海に行ったり、カラオケ行ったり、中学までの私では考えられないくらい男子と関わりを持てた。
男が少ないこの世界の中で、十分恵まれている方だったのに……それ以上を望んでしまった。
男子の前で泣くなんてかっこ悪いし、不快にさせるだけなのに、涙ぐんでしまう。
「北山さん」
私の名前を呼ぶ相沢くんの声は冷え切ったものではなかった。
一欠片の希望を持ってしまって、涙を見せないようにと俯いていた顔を上げる。
「まずは謝らせて、ごめん。誘ってくれたのに、嫌な態度を取っちゃったから」
相沢くんは頭を下げた。謝る必要なんてないのに……
「それと悪いけど……今は零さん意外考えられないかな……」
相沢くんの言葉は、あくまで雪村への好意から来るものだと分かった。
「そっ……か……今までありがとう半年くらいだけど仲良くしてくれて、まぁ雪村のおまけ程度にしか見えてなかったかもだけど……」
「ちよっと待ってよ。なんでそうなるの?恋人……は難しいけど、友達としてなら今まで通り遊びに行ってもいいんだよ?北山さんがいないと、零さん寂しがるだろうし……」
優しい、優しいね。痛いくらいに。
男の方から、ここまで言ってくれたのに断るのは失礼だよね。
「喚き散らしてごめん、まだ……友達で居てくれる?」
「もちろん。零さんとか蒼真くんにはこの事秘密にしておいてあげるよ」
「ほんとに……ありがとう」
その後、相沢くんから寄り道をして何か食べて行こうと誘われたが、やっぱりまだ気まずかったので断ってしまった。
相沢くんとは廊下で別れて、私は帰路についた。




