第22話 プレゼントって難しいよね
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休日。俺は蒼真くんと出掛ける為に支度していた。
蒼真くんと相沢くんは仲がいいと思う。よく一緒に行動してるし。
それなのに秘密ってことは……サプライズってやつだな!
もしかして相沢くんの誕生日とか近いのかな?蒼真くんも律儀だねぇ。高校生の男友達同士でちゃんと準備するとは。
蒼真くんに言われた時間まで余裕があるが、準備も出来たし出発するとしますか。
待ち合わせの場所に着いたのでメッセージを送るが既読がつかない。少し待つか。
「ねーえ、一人ならお姉さん達と遊ぼうよ」
「退屈させないからさぁ」
「あの……人と待ち合わせてるんで」
スマホを見ながら待っていると、軽く殺意の湧く会話が聞こえてきた。逆ナンとかいいご身分ですね!
声のする方に睨みを効かせると、なんとナンパされているのは蒼真くんだった。
コイツは沙那ちゃんやクラスの女子達だけじゃ飽き足らず道行く綺麗なお姉さんも引っ掛けてんのか?
最近大人しくしてると思ったが、わざわざ見せつけてきやがって……!羨ましいなちくしょう!
「ごめんなさいねぇ、お姉さん達。彼、今日は私の貸切なんで」
「……!」
ふふふ。蒼真くんが絶句してるわ。せっかく声かけてくれたお姉さん達を諦めさせるような事を言われて怒りで顔も真っ赤だな!
「ちっ、連れいたのか」
「えー、連絡先だけ交換してよ」
お姉さんがスマホに表示したコードをすかさずスマホで読み込む。
「なっ!?」
「私ならお姉さん達大歓迎なんで友達から始めましょう?」
「お断りよ!」
差し出した手は叩き落されてしまった。
「そこをなんとか!」
「なんでそこで食い下がるの!?」
「コイツヤバい奴だよ!逃げよ!」
顔を青くしたお姉さん達は急いでどこかに行ってしまった。ちなみに連絡先は一瞬で消されてたよ。ちょっと泣いた。
「すまない雪村……また助けられたな」
消え入りそうな声で蒼真くんが礼を言ってくる。体裁上助けてもらったからお礼を言って来てるんだろうが内心は怒ってんだろうな。まぁ恨むなら今日私の事を誘った自分を恨むんだな!
「俺……貸し切られちゃったのか……」
「ん?なんか言った?」
「いや……なんでもない」
蒼真くんについて行くと、最初に入ったのはアクセサリーショップだった。相沢くんはあんまり付けているイメージはないけど私服だと案外こいうの付けてんのかな?
「こういうの……どう思う?」
女性が付けてそうな可愛いデザインだが相沢くんは小柄だし、可愛い系のファッションならアリなんだろうか。
「アリだとは思うけど……もうちょいかっこいい系のも見てみたいな」
相沢くんや蒼真くんが女子と仲良くなりそうだと邪魔してばっかの俺だが、別に二人の事が嫌いな訳では無い。だからプレゼントくらいは真面目に選んであげよう。
「かっこいい系か……これなんかはどうだ?」
「あっ、いいかも。相沢くんに似合いそう」
「そ、そうだな。相沢にも似合うかもな」
結構いいと思ったのだが、蒼真くんの反応はイマイチそうだ。時間はまだあるしゆっくり見て回ろう。
その後も相沢くんへのプレゼントを探して色々な店を回ったが蒼真くんが納得してくれる物は見つけられなかった。どんだけ吟味するんだ蒼真くんよ。
「なぁ、雪村……今日、楽しんでくれているか?」
「ん?まぁ、楽しいよ」
相沢くんのプレゼント選びだからそこは重要では無い気がするが……
「相沢と来たかったか?」
え?サプライズなのに本人居たらサプライズになんないじゃん。いや相沢くんと一緒に選んで買っても喜んでくれそうではあるが。
「それでもよかったかもね」
中々いいの見つかんないみたいだし。
「そうか……無理に誘ってすまなかったな」
ーーーーー
雪村には助けられてばっかりだ。
今日だってしつこいナンパから守って貰った。年上相手でも臆することなく俺の前に立つ姿はかっこよかったし嬉しかった。
雪村には今日楽しんで貰いたくて下調べもしてきた。だけど一緒に店を巡るにつれてどんどん苦しくなる。
ー相沢くんにこれとか似合いそうじゃない?ー
ーこれなんて相沢くん好きそうじゃない?ー
どうして、ここにいない相沢の名前ばかり出すんだ……!
……目の前に居るのは俺なのに。
それでも、せっかく来てくれた雪村に嫌な思いをさせないように、感情を表に出さないように頑張った。
友達に似合いそうなものを見つけて話題にするのを咎めるのはおかしい。
俺たちが恋人でデートに来ていたのなら、一言言っても良かったんだろう。
生憎、俺たちはそんな関係性じゃない。俺が一方的に片思いしてるだけなんだ。
そう、頭では分かっていても、相沢への嫉妬。雪村への……苛立ちを完全に断ち切ることは不可能だった。
抑えていた感情が一粒零れて、理性が止める前に、言葉となって出て行ってしまった。
「相沢と来たかったか?」
「それでもよかったかもね」
心臓がドクンと大きく音を立てた。雪村が「そんなことない。蒼真くんと来れてよかった」とでも言ってくれると心のどこかで期待してしまっていたのだろうか。
相沢は雪村にとって特別な存在になれたんだな。
震えた声がバレないように気をつけなければ。だってダサいだろう?勘違い男の涙なんて。
「そうか……無理に誘ってすまなかったな」
素直に友達を祝福出来ればよかったんだがな……今は無理そうだ。
この場から一刻も早く離れたくて踵を返して歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ!どうしたの?」
「悪い。帰る」
「いつ渡すのかは知らないけどさ。相沢くんへのプレゼントは買わなくても大丈夫なの?」
雪村に対して悪態をついてしまう自分に嫌気がさす。プレゼントなんて買わ……え?相沢へのプレゼント?
「なんで俺が、あいつへのプレゼントを買うんだ?」
「え?だって相沢くんの誕生日かなんかのサプライズプレゼントを買いに来たんじゃないの?」
何を……言っているんだ……?
「なんで……そう思うんだ?」
「相沢くんには秘密だ、なんて言うからてっきりサプライズでもするのかと……」
あぁ……道理で……
道理で雪村は相沢の事ばかり話すわけだ。傷ついた自分の事ばかり考えていたせいで違和感に気づけなかった。
馬鹿だ……最初からデートして欲しいと。恥ずかしがらずに言っていればこんなことにはならなかったのに。
「相沢の誕生日はまだまだ先だ……今日は純粋に雪村と出掛けたかっただけだ」
「えっ……そうだったの……うわ、じゃあ今日の私、的外れな事言ってたよね?ホントごめん」
雪村は悪くないのに申し訳なさそうに謝ってくる。
「いや、いいんだ……それより雪村は相沢に……その、特別な感情を抱いてたりしないよな……?」
「はぁ……?全くないよ、ただの友達だよ」
よかった……まだ諦めなくていいのか……
だが、全くないと言いきられる相沢に少々同情する。
「お詫びと言ってはなんだけどご飯食べてから帰ろ。奢るからさ」
「いや、俺が紛らわしかったのが悪いんだ。奢らなくていい」
俺と雪村は近くのファミレスに向けて歩き出す。
心底ホッとした。もう隣にはいられないんだと絶望していたから。
ところで……雪村は俺に……少しくらい、特別な感情を持ってくれているのだろうか?
今は……なんとなく怖くて聞くことが出来なかった。




