第21話 まるであの日のように
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なつちゃんと無事仲直り出来た。それは本当に良かった。明日だって一緒に学校へ行ってくれると約束してくれた。
くれたんだけどさ……
「はっずかしいー……」
俺は自室のベッドに倒れ込んだ。
え?女子高生相手に泣きながら復縁を迫る成人男性とか事案ですか?
いや、姿は女子高生同士なんだけどさぁ……それにしたってさ……
だって必死だった。元の身体の持ち主の親友とか、そういうの抜きにしてもなつちゃんと疎遠になるとか絶対に嫌だと思った。
この世界に来て、学校の場所すら分からない状態の俺に手を差し伸べてくれたのがなつちゃんだ。彼女本人にその自覚がなくても本当に助けられたんだ。
例え……その差し伸べられた手が俺じゃなくて、この身体の本当の持ち主に差し出されたものだったとしても。
ふと、なつちゃんの言っていたことを思い出した。
「悪いのは私だからとか、困らせる……とか言ってたっけ?」
普通に友達やっててそんな大層なことが起きるだろうか?
結局教えてくれなかったし……まぁ、言いたくないならこれ以上追求するのはやめよう。今まで通り友達で居てくれるって言ってくれた訳だしな。
そろそろ寝なきゃ。寝坊してなつちゃんを待たせたら嫌だし。
少し早かっただろうか。秋の涼しい風が容赦なく吹きつける。でも今日は……家の外で待っていよう。
5分くらい、ぼーっとしていただろうか。雲一つない空を眺めていると軽快な足音がした。
まるであの日のようだ。この世界に来て間もなくで、学校の場所すら分からなかった初日。サイドテールを揺らして現れた美少女。
「おはよう零!寒いね!」
「なつちゃんおはよ。風も冷たいしね。ホント寒くなったよ」
よかった……いつも通りのなつちゃんだ。今は普通に接してくれるだけで嬉しい。
「うわー。来週からもっと寒くなるってよ」
なつちゃんがスマホで天気予報を見ながら呟く。
「冬だねー」
やっべぇ……天気の話しかしてねぇよ。しっかりしなきゃ……何か話題を振ろうとなつちゃんの方を見ると、信号を無視したバイクが走って来るのが見えた。
「なつちゃん!危ない!」
「え?」
思いっきり引き寄せたせいで尻もちをついてしまった。痛ってぇ……でも俺が抱き留めるような体制になったお陰でなつちゃんは大丈夫そうだ。
「大丈夫?怪我してない?ったくあのバイク危ないなー」
「あ、あ、ア……アリガトウ!レイチャン!大丈夫ダヨ!」
「なつちゃん……?」
なんかめっちゃカタコトだけど本当に大丈夫だろうか……?
「じゃあまた、後でね」
「うん、またね」
教室に着いた俺たちは座席が離れているため別れて席に座った。
「いやー、昨日は青春ドラマのワンシーンみたいだったねぇ?零?」
沙那ちゃんがここぞとばかりに弄ってくる。
「沙那ちゃんとならラブロマンスを演じてみたいかな」
「ヒェッ……茶化して悪かったって……」
目を逸らしながら、スススと沙那ちゃんが逃げていく。そんな沙那ちゃんを横目に美佳ちゃんが呟いた。
「はぁ……いつもの調子に戻っちゃった。いや、安藤さんに頼めばいつでも雪村を無力化出来る……!?」
「残念だったね!既に私となつちゃんは硬い絆で結ばれているのさ!永遠の親友さ!」
「ウグゥ!?」
今、なつちゃんの声がしたような……いや、気のせいか。なつちゃんからあんなダメージボイス出るわけがないな。
「ちっ、ダメか。そういえば安藤さんにそんなこと頼めるほど親しくなかったわ」
ーーーーー
「普通に話せてたかな……今まで通りに笑えてたのかな……」
休み時間、私はトイレの鏡に写る己の姿を見つめていた。
零のことを困らせないように、想いを伝えずに友達を続けると決めたのに。
心臓に手を当てるとまだうるさい。それは危なく事故に遭うところだったからか?いいや……違う。好きな人にあんな助けられ方したからだ。
「本当に……先が思いやられるよ……」
……それにしてもさっきのは効いたな……永遠の親友……永遠に結ばれることはない存在……
違う……喜ぶところだよ。永遠に親友で居てくれるなんて言ってくれる人そうそういないよ?
うん。大丈夫。
大丈夫。
だいじょ……うぶ……
鏡に向かって笑ってみる。
どんなに笑顔を作ろうとしても、鏡の中の私は上手く笑ってくれなかった。
ーーーーー
「雪村。昼飯一緒にいいか?」
「ん?いいけど」
いつもは相沢と来人と共に自然な流れで雪村の所に行って昼飯を食べているが、今日は二人とも先生から呼び出しを食らったため不在だった。
なんか……2人きりだと落ち着かないな。
「最近寒くなったな」
「天気の話はもうたくさんだよ……」
雪村は苦い顔をしている。なんでも、安藤と朝一緒に来る時に何を話していいか分からずに、ずっと天気の話をしていたらしい。
「今までは何話してたんだ?」
「……学校の事とか……?」
「他には?」
「雨すごいねーとか……」
俺もそんなにコミュ力高いわけじゃないが雪村も大概かもしれない。
「話題になりそうなものを日頃から少し考えておくといいかもな。話題作りの為に時間を使うのも必要だと思うぞ」
「難しいなー」
雪村がぐでーっと机に伸びる。いつもより無防備な姿に心を許してくれていると感じ少し嬉しくなる。
「流行りの店とかそういうのネットで見るだけでも話題に出来ると思うが……」
「なんかいいのある?」
スマホで調べながら呟くと雪村は身体を起こして、画面を覗き込んできた。
近っっっか。こんなん恋人の距離感だろ……!
すぐ近くまで迫った横顔に、一気に心拍数が上がった。
「ゆ、ゆきむら……ちょっと近い……かも」
嬉しさよりも、俺の心臓の安全確保が優先だ。
「え?あぁ、ごめん」
相変わらずドライな返しに他の女子のするような無意識風なアプローチとは違うとよく分かる。
それと同時に俺はこんなに照れてしまっているのに、雪村は全く照れてくれない事が少々悔しい。
俺は男として見られていないのだろうか。そんなに魅力がないのだろうか。今までこんなことで悩んだ事はなかった。何もしていなくても女子の方から寄ってきたからだ。
何も行動出来ないままの俺では、きっと彼女の隣には居られなくなる。
「雪村、次の休み暇か?よかったら……デー……買い物に付き合ってくれないか?」
デートと言いたかったが、それにはまだ恥ずかしさが勝ってしまって。
「別にいいけど……相沢くんとかも誘う?」
「いや、二人きり……がいいな……」
恥ずかしさで声が小さくなってしまうが、雪村はピンと来た表情をしていた。
「あー!そういうことね。おっけー。相沢くんには秘密ね」
秘密……後ろめたい事がある訳じゃない。
だけどその言葉はあまりにも甘美な響きをしていた。




