第20話 重荷になりたくなかった
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「れいー元気だせー」
机に向かって項垂れている俺の事を沙那ちゃんが揺さぶってくる。
「私は雪村がこのくらい静かな方が助かるけど」
「またまたー。零が絡んでくれなくて寂しいくせに」
「んなわけあるかぁ!」
なんか俺の前で、てぇてぇやり取りがされているような気がするが、今の俺には百合の間に挟まる元気もない。
なつちゃんはどうしてあんなことを言ったのだろう。
なつちゃんとの関係が悪くならないように変な事は言わないように気をつけていたつもりだ。
もし、この身体の持ち主が向こうの世界に満足して、戻ってきたときに親友くらいは関係性をそのままに残しておいてやりたかったからだ。
いきなり入れ替わったんだ。また同じことが起こらないとも限らないだろ?
「はぁ……相沢くんは時間が解決してくれるって言ってたけど、本当にそれでいいのかな……」
「雪村……いつまで言ってんの?」
「そーだよ。悩んでもわかんないなら悩まない方がが得じゃん?なんか別な事して気を紛らわせた方が良いって」
沙那ちゃんも美佳ちゃんも優しいな……こんな俺を気遣ってくれている。
チラリと離れた席に座るなつちゃんを見る。次の時間の予習をしているようで教科書を読んでいる。
「にしても安藤さんか……そんなに話したことないけど結構優しい感じの人だと思ったけど」
「まぁー、優しいっていっても怒る時はあるっしょ?」
そっか美佳ちゃんや沙那ちゃんはあんまり話したこと無いのか。
「雪村のセクハラが嫌になったとか?」
「なつちゃんにはしてないよ……」
「じゃあ私にもするなよ」
美佳ちゃんがジト目でこちらを睨んでくる。残念ながら美佳ちゃんは入れ替わってから出来た友達なので俺のしたいようにさせて貰うつもりだ。
「んー。ジト目もかわいいね?」
「沙那。もうこいつ元気なんじゃない?」
美佳ちゃんが呆れた表情で俺のことを指差すが沙那ちゃんは首を横に振った。
「いーや、キレがないから本調子じゃないね」
「セクハラにキレも何もないでしょ!?」
「あはは……あ、そーだ、零が男三人と仲良いから羨ましいんじゃない?女なら零のこと少しは、ずるいー!そこ変われー!って思うっしょ」
羨ましい……?俺は1ミリも望んでないんだが……でも、その可能性もあるのか。
「沙那ちゃんもそう思う?」
「え?あたし?うーん……最初は思ってたけどなー。男子三人侍らせて羨ましいなこのやろー!って、でも零のお陰で前より男子達と仲良く慣れたし、今はホントありがとうって感じ」
「正直雪村いなかったら、男子達はカラオケとか海とか来てくれなかっただろうし、そこだけは私も感謝してる」
つまり、なつちゃんは自分だけ男子達と仲良くなれてないから怒ったってこと?ぐぬぬ、可愛い女の子に彼氏が出来るのをサポートするのは不服だが、関係修復の為、そしてなつちゃんの幸せの為にキューピッドとなるしかないのか!
「ありがとう二人とも。やるべきことの方向性が分かったよ」
「そかそか、よかった」
「どういたしまして」
ありがとう二人とも……!善は急げだ。俺は立ち上がりなつちゃんの前まで行って前の席の椅子を拝借して腰を下ろした。
「っ……!零……どうかした?」
「今度……さ。男子達と遊びに行こうかなーって思ってるんだけどなつちゃんもどうかな?」
「な、なんで……?」
なんで!?あれ?ここは「やっと誘ってくれたか!待ちくたびれたぜ!」みたいな流れにならないの……?
「いや、えっと、ほら!皆で遊べば楽しいよ!」
いや何言ってんだ俺。子供向けの絵本かよ。
「……?よく分からないけどごめんね。もうあんまり零と話さないようにしようって決めたから。もちろん零が悪いわけじゃないよ。悪いのは私だからね」
ーーーーー
ボーっと教科書を眺める。あぁ、あんなこと言わなきゃ良かったかな……
私じゃ零に相応しくない、零には仲のいい男子も沢山いるし、だから距離を置いた。唯一私に許された、二人だけの時間だった一緒に登校するという権利を捨てた。
私に突き放された零の顔は見ていられなかった。驚きや困惑。寂しいって感情。そんな感情がぐちゃぐちゃに混ざったような顔をしていた。いや、寂しいっては思ってないかも。そう思ってて欲しいなっていう私の希望的観測。
それでも突き放さなきゃいけなかったのは、これ以上零と一緒にいると辛くなってしまうからだ。絶対に結ばれない。男子同士の恋愛ものは一部女子から人気だが、女同士はあまり聞かない。
それに零の重荷になりたくなかった。下手に気持ちを伝えれば零は優しいから、きっと困ってしまう。私を斬り捨てることが出来ないだろうから……
それなのに……
「いや、えっと、ほら!皆で遊べば楽しいよ!」
どうして私を誘うの?それに男子と一緒?私にとってその空間にいるのは拷問に等しいというのに。
いやいや、零は私の気持ちなんて知らないんだから悪気なんてないんだ。落ち着け私。
「……?よく分からないけどごめんね。もうあんまり零と話さないようにしようって決めたから。もちろん零が悪いわけじゃないよ。悪いのは私だからね」
「なんだよ……それ……なつちゃんの何が悪いって言うのさ!?言ってよ?言われなきゃ分かんないんだよ!」
零の頬を一粒の涙が伝った。
「零……泣いてるの?」
なんで零が泣くの?
「理由も分からずに友達から突き放されれば悲しいに決まってるだろ!?」
私との縁が切れる時。涙を流してくれるくらいに大事に思われていた事が嬉しい。
「私が一緒に居たら、いつか零の事……困らせちゃう日が来るから」
私の零への好きだと言う気持ちが抑えきれなくなった時。想いを伝えてしまえば関係は崩れる。だったら今のうちに関係をなくしてしまいたい。
「いくらでも困らせてくれていいから!困ったことがあったら頼っていいし!なつちゃんのことを重荷になんて絶対に思わない!!」
「はいはーい。そこまで、零落ち着けー」
ヒートアップいたせいで声が大きかったからクラスの全員がこっちを見ていた。零のことは古谷さんが引きずって行こうとしていた。
「あー……安藤さんも落ちつ……いや、安藤さんは落ち着いてるか。いや、これなんも言うことないな……まぁ……その、雪村だし、そんなに遠慮しなくてもいいんじゃない?」
北山さんが気まずそうに声を掛けてくれた。
いい……のかな。零の優しさに甘えても。
こんなに真っ直ぐな感情をぶつけられてしまったら……もう、私から突き放すことは……出来ないよ……
……私が零に気持ちを伝えなければ大丈夫。
もちろん私は辛い思いをするかもしれない。好きなのに、一緒に居るのに想いを伝えられないんだから。
それでも、やっぱり、離れるのはもっと辛い。
「零……明日も……一緒に行っても、いいかな?」
私のたどたどしく紡いだ言葉を聞いた、零の表情はパァっと明るくなった。
「……もちろん!」
「なぁ……先生授業初めてもいいか?」
「「す、すみません……」」
困り果てた先生の声に私達は席についた。




