第19話 親友の看病に行くことすら許されないの?
読んで頂きありがとうございます!
零……大丈夫かな……
川に落ちて濡れてしまったせいで、熱がありそうと古谷さんと北山さんが話していた。帰りのバスでも少し辛そうにしていたから多分ほんとに熱があるんだと思う。
家に帰って荷物を置いてからすぐに薬局に寄って熱が出た時に必要になりそうな物を買い漁った。零の家に買い置きがあるかもしれないが、買いすぎて悪いことはないから色々買っていくことにした。
看病に行くのは私のせいで落ちてしまったという罪悪感から少しでも逃れたいという自己保身だ。と言われれば否定は出来ないかもしれない。でも、ただ親友として心配なのも事実だ。
それに最近二人で話す機会が前より少なくなった。零は人気だから。だから看病しながら少し一緒に居たいな……なんて思うのは傲慢なのかな。
零の家の近くまで来た。ヤバい……段々緊張してきた……スマホの内カメラをみながら前髪を整える。そういえば零のこと意識し始めてから初めて家の中に入るかも。
数ヶ月前まではなんにも思わなかったのに。改めて自分の感情を思い知らされる。
「……よし」
声を出して自分を鼓舞する。大丈夫。ただ友達の看病をしにきただけ。本当にそれだけ。
変に意識しないように自分自身に言い聞かせながら零の家の前までくると、玄関先に誰か居た。咄嗟に隠れてから、そーっと覗くとクラスの男子達だった。
「先……越されちゃったか……」
私は男子達との面識薄いし、今一緒に入っていくのも気まずい。何より零と2人きりになれない。
零本人が出迎えていたことから察するとお母さんは居ないみたいだ。
「すぐに出てくるかな……?」
ぜ、全然出てこない……
はぁ……もう二時間は経ってるよ……病人相手にクラスの男子は何してるの?まさか零が弱っているのをいいことに……ってないない。男女逆だったら99%そうだけど男子がそんなことする訳ないよね。
帰ろ。きっと神様が私にはこんなことする資格ないって言っているんだ。
渡すはずだったスポーツドリンクや薬の入ったビニール袋を片手に帰路に着く。
1キロもないはずのビニール袋がとても重く感じる。
重いから手を離した。
ガサッと音をたてて落ちる。
二時間も待っていたせいか脚が重く感じる。
踏み出すのが嫌になってその場にしゃがみ込む。
……なんで、なんで親友の看病に行くことすら許されないの?
休み時間に零と話すのは男達じゃなくて私くらいだったはずでしょ。
零には私しか居なかったはずでしょ?
今までは零のこと嫌ってたくせに。避けてたくせに。
でも……分かってる。男子達が悪いわけじゃない。零が変わって、男子達からの評価も良くなってその結果こうなってるだけだって。
変わってしまった零が悪い?そんなわけない。そんなわけないんだよ……悪いのは、女なのに女を好きになってしまった私だ。
ーーーーー
あー。ずっと寝てたせいで土日休んだ気がしないなぁ。
「おはよ零」
「おはようなつちゃん!」
朝一から可愛い女の子と待ち合わせできるのはやっぱり最高だな!
「熱、大丈夫だった?」
「うん、大したこと無かったよ」
何だかなつちゃんの元気ない?やっぱりまだ俺が川に落ちたの自分のせいだって落ち込んでんのかな……全くそんな事ないのに。
いつもは会話が途切れることはないんだけど、今日は全然続かない。うーん。なんて言ったら気にしないでくれるかなぁ。可愛い子には笑顔でいて欲しいんだけどな。
「なつちゃん。私には熱が出たことによって一つの夢が出来てしまったよ」
「……夢?」
「そう、可愛い女の子におでこ同士で熱を確かめてもらうという夢が!!」
きっとこう言えばなつちゃんは「何それー笑」みたいな感じで笑ってくれるはず……はずなんだけど真顔だった。
「へぇ……そうなんだ」
なんか今日のなつちゃん圧強くない?
「ねぇ、零」
「ど、どしたの?」
「もう……一緒に学校行くのやめよっか」
「え……」
ーーーーー
ちゃんと零さん学校来てるかな?元気になっていることを願いながら教室のドアを開けると零さんの姿はあったが、机に突っ伏していた。
「おはよう零さん体調大丈夫?」
「相沢くんか。おはよう。大丈夫」
「あんまり大丈夫じゃなさそうだけど……」
顔色が悪いし元気もない。
「相沢くんは自分の悪い所って分かる?」
悪い所?もしかして、しつこいから気を悪くさせちゃったかな……
「ご、ごめんしつこかったよね」
「いや、そうじゃないんだけどさ……」
気を悪くさせた訳では無いようだけどテンションがめちゃくちゃ低い……どうしちゃったんだろ。
「友達を怒らせちゃったみたいでさ。でもどこが悪かったのか……正直分からなくて」
「あー……そういうこと……」
珍しいな零さんがこんなにへこんでるのって。力になってあげたいけどな……
でもなんか……へこんでる零さんっていつもと雰囲気違くていいな。いつもよりも素っ気なくて哀愁があって……
って何考えてるんだ僕は!零さんがこんなに悩んでるのに!
僕は邪な感情を振り払い、零さんの前の席に座った。
「零さんとその人はその時はどんな会話をしていたの?」
「えーと……可愛い子におでこ同士で熱を測られたいって話をしたかな」
「えぇ……そ、そうなんだ……」
零さんがそんなことを話す相手……?でも北山さん辺りだと怒ってるよりもツッコミ入れてる感じだしな……も、もしかして蒼真くんに言ったの!?確かに蒼真くんはカッコイイ系だし自分以外の誰かに、そんなことをして貰いたいなんて言われたら、つい怒っちゃうのも納得だ!
そして……可愛い系男子と言ったら、自分で言うのは恥ずかしいけど僕しかいないはず!よく言われるし!
けど怒られちゃったとここまで零さんのことをへこませられる蒼真くんには少し嫉妬しちゃうな。
「相手を貶すようなこと言った訳じゃないしさ、少し時間を置いてみるのもいいと思うよ」
ふふ……悪いね蒼真くん。少し罪悪感はあるけど零さんと蒼真くんが話す機会を減らさせて貰うよ……!
「時間……か……話しかける勇気も出ないし、そうしてみようかな。ありがとね相沢くん」
切なそうに笑いかけてくる零さんに、こっちまで何だか苦しくなる。いったい蒼真くんはどんだけ怒ったんだろう……?
「おはよう二人とも」
僕の背後から蒼真くんが挨拶した。えっ、普通に挨拶してきちゃうの!?
「おはよ蒼真くん。先週は看病ありがとうね。相沢くんもありがとう」
あ、あれ……?蒼真くんのことじゃなかったの……?




