第17話 俺が男だったらやりたかったことなのに!どうして俺がやられる側なんだ畜生!
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「なつちゃん、脚の調子はどう?」
「うん。もう大丈夫そうかな。荷物ありがとうね、零」
「ん、気にしないで」
なつちゃんが脚を痛めていたため、預かっていたリュックサックを手渡した。
下山を初めてから1時間くらい経ってるしあと半分くらいかなぁ……もとの俺の身体なら苦じゃないがこの身体の体力ではなかなかキツイ。
「零!前見て、前!」
ぼーっとしながら歩いていたが、なつちゃんの声にハッとした。やべ、川に落ちるわ。まぁ深くはないし大丈夫か。
バシャンと、そこそこ大きな音を立てて落ちた訳だが幸い怪我はなかった。
「ごめんね零。私がバック持たせて疲れさせたからぼーっとしちゃってたんだよね?」
なつちゃんが涙目になって自分のせいだと嘆いている。元気っ子幼なじみの涙目はギャップが素晴らしいな……っといけないこんなこと考えてる場合じゃなかった。
「違うってば、単に余所見してただけだよ。服は歩いているうちに乾くから大丈夫だし」
「なんか凄い音したけど……零さん!?」
「おい、大丈夫か……?」
なつちゃんの手を借りて立ち上がろうとした時、相沢くんと蒼真くんが来た。
「びしょ濡れだけど、どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもないよ。よそ見してて落ちただけ」
「ご、ごめん。そうだよね。それより……そのぉ、シャツが濡れて透けてて……」
シャツ?あぁ。白いTシャツだったから透けてしまっているようだ。うーん。自分が透けててもなぁ。あくまで自分だからあんまり嬉しくない。そうだ、今度美佳ちゃんと沙那ちゃん誘って水鉄砲で遊ぼう!もう秋だけど……
「零さん……?」
「あぁ、まぁ。そのうち乾くからいっか……」
「零さん!?良くないよ!?僕がよろしくないよ!」
あれ?貞操観念逆転世界だし気にされないと思ったのだが、そうもいかないらしい。どういうことだ……?
「雪村。とりあえずこれを」
考え込んでいると蒼真くんに長袖ジャージを肩に掛けられた。
「風邪ひかないようにな」
袖を通すと体温がまだ残っていた。俺が男としてこの世界に来たらやりたかったやつじゃんか……周りが手を差し伸べないなか1人だけ優しく手を貸してあげる。それも傲慢なはずの男が。そういうのが貞操観念逆転世界の王道じゃないのか!なぜ俺はやられる側なんだ畜生!
……とはいえ蒼真くんの善意を無下にするほど腐っちゃいないので有難く受け取るとしよう。
「蒼真くん、ありがとう」
「……っ!?あ、ああ……そうだ、汗臭かったらすまない。脱いでもいいからな」
蒼真くんも乙女なところあるんだな。気にしなさそうなのに。いや、この世界的には合ってるのか?なんかわかんなくなってきた。
腕を鼻に近づけてジャージの匂いを嗅いでみるが柔軟剤の匂いしかしなかった。
「柔軟剤のいい匂いしかしないよ」
「わ、わざわざ嗅がないでくれよ……」
珍しく蒼真くんが真っ赤になっている。あれ、なんか悪いことしたかな……
ーーーーー
俺と相沢は雪村達とは少し離れたところを歩きながら先程の事について話していた。
「零さんのし、下着見ちゃったよ……」
「雪村の奴気にしなさすぎだろ……」
別に興味の無い女の下着姿なんて見たくもないが、気になっている女子、好きな人であれば、話は別だ。
「それに、そのあとのありがとうって言いながらの笑顔。可愛かったなぁ」
「微笑みはするけど、ああいう素直な笑顔はあんまりしないもんな」
他の女子の媚びるような笑顔は嫌という程見てきたが、雪村の自然な表情はいっさい邪念を感じない笑顔だった。
「というか蒼真くんがあんなに狼狽えている所初めて見たかも」
「うるさい……」
雪村にはあんなふうに狼狽えている姿は見られたくなかった。だが雪村も反則だろ。本人の前で服の嗅いで、いい匂いだとか……
「蒼真くん、真っ赤だよ?」
「う、うるさい」
いつも相沢のことをいじっている仕返しか、今日の相沢はやたら俺のことをいじってくる。
「僕も負けてらんないな~」
ーーーーー
「くしゅんっ!」
「零どした?風邪でも引いた?」
山の麓に着いた頃、少々身体が冷えてきた。まだ暖かいからと濡れた服をそのまま着ていたのがダメだったか。
「さっき川に落ちちゃって」
「だから濡れてたんだ」
美佳ちゃんも気づいていたようで濡れていた理由に納得している。
「温めて欲しいな?」
「うわっ!?抱きついてくるな!」
いつもの如く美佳ちゃんに拒否られていると、沙那ちゃんが俺のおでこに手を当ててきた。
「んー、冗談言ってないでさ。多分熱あるよ」
「是非おでこ同士で測ってくださいお願いします!!」
美少女ギャルJKの看病ルートきたぁぁぁ!!
「しないよ?」
ちくしょう、来なかったぁぁぁ!!
ピピピピと、熱を測り終えた合図の音が部屋に鳴り渡る。無事家に帰ってきた訳だが、沙那ちゃんの言った通り熱があった。
「せっかくの土日なのに……」
母さんは出張で家を空けているため、一人で家の事はしなくてはならない。
「前の世界での一人暮らしのことを思い出すなぁ」
思い出にふけっていると、ピンポーンとチャイムがなった。誰だよこんな時に……
「あ、零さんごめん、起こしちゃった?」
玄関を開けると男三人衆が居た。
「いや、起きてたから大丈夫」
「姐さんのお母さんは?」
「あー、出張でいないんだよね」
俺の言葉に三人は俺に聞こえないように何やら話し合っている。
「本当はお見舞いの品だけ渡して帰ろうと思っていたんだがな、そういうことなら看病させてくれ」
看病イベント……女子に優しく看病されたかったのにどうしていつもこうなるんだよぉ!?
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします




