第16話 男子達からの評価なんて……
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「はぁ……はぁ……もー……疲れたんだけど」
前を歩く美佳ちゃんが息を切らしながら不満を漏らす。今日は林間学校で山に来ていた。自然の中を歩くのは俺個人としては大好きだ。周りはそんな事ないようだが……
「ごめーん、零。ちょっと手ぇ貸して」
沙那ちゃんが1段低い所から助けを求めてきた。差し出された手をぎゅっと握り沙那ちゃんを引き上げた。落ちないようにしっかり掴んだだけだからな?下心とか半分位しかないからな?
「ありがとー……?もう手離していいよ?」
「ふっ。離したくないって言ったらどうする?」
「美佳ー!ヘルプミー!」
沙那ちゃんは俺に掴まれた手をぶんぶん振り回しながら美香ちゃんに助けを求めた。そんな嫌なの?泣くよ?
「雪村……今日は体力残ってないの。頼むから大人しくしててくれ」
美香ちゃんに釘を刺されてしまったので、名残惜しいが繋いでいた手を離す。あぁ……美少女ギャルJKのおててが……
「れ、零。私も疲れちゃってさ。ちょっと手を……」
珍しくなつちゃんが助けを求めてくれた。本当に困っている人を茶化すのはよくないな。
「大丈夫?バック持とうか?それとも先生に言って少し休んでから行く?」
「い、いや、そこまでじゃないから大丈夫……」
「そう?でもバックぐらい持つよ」
なつちゃんからバックを受け取り肩にかける。この山を登るのは普通の女子高生には結構キツイだろうな。
「手、繋ぎたかっただけなのにな……」
「ん?ごめん聞こえなかった。どうしたの?」
「なんでもないよ!少し体力回復したら返してもらうね。ずっと持ってもらうのも悪いし!」
この体はやたら体力あるから気にしないでいいのに、なつちゃんはいい子だなぁ。
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「げほっ!げほ……二人とも体力あるね……」
「相沢がないだけじゃないか?」
「そんなぁ……」
相沢が弱音を言うと来人が無慈悲な返しをした。俺たち男子三人はクラスの女子達とは別で登っている。先生も付きっきりだ。
「ここに零さんがいなくて良かったよ。こんな情けない所見せたくないし」
「姐さんなら相沢の一人や二人くらい抱えて運んでくれるさ」
「そんなの嫌だよ!?そして僕は二人もいないよ?」
来人は相沢にツッコミを入れられ呑気に笑っている。
「にしても日帰りだから午後にもう1回この道を通ると思うと気が重いよ……」
「じゃあ相沢だけ1泊してくるといい。暗い山の中、一人でな」
「それだけは嫌だよ!」
相沢を弄るのも程々にして、歩みを進めていると先に登っていたはずの女子の姿が見えた。
「あれは……零さんと安藤さん?」
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あーもう、最悪。
零と手を繋ごうとしたけど失敗して、変に気を使わせてしまったし、バック持ってもらってるのにコケて脚痛めるし……
零は優しいから先生に言って一緒にゆっくり進んでくれているけど、絶対北山さんや古谷さんと一緒に行きたかっただろうな。
考えれば考えるほど自分が嫌になってくる。
「何かあったのか?」
零に肩を借りて歩いているとふいに声を掛けられた。振り返ると、男子グループがそこには居た。そっか女子よりもスローペースで登っているんだっけ?
「合法だから……」
「え?」
「例え女子高生とこれだけ密着してても罪じゃないから!犯罪じゃないからね!」
別に零がどれだけ私とくっついていても犯罪にはならないでしょ……男子達も困惑して何も言ってこないし。
いや、もしかして、私が零に迷惑掛けてることを誤魔化してくれてる?男子達からの好感度が下がらないように。
だからわざと訳の分からないことを言っているんだ。
そんなことする必要ないのに……
零の心遣いは嬉しいけど、申し訳なくなる。でも伝えることも出来ないよ。
だって、男子達からの評価なんて……どうでもよくて、貴方以外興味無いです。
なんて言えるわけないから。
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雪村と安藤と合流してから頂上までは割とすぐで、その後のカレーと豚汁作りも問題なく完成し、少し遅めの食事時間となった。
「雪村は優しいな」
「蒼真くん……突然どうした?」
「安藤、あれ怪我してたんだろ?先生に任せることも出来だだろうに」
俺の言葉に雪村は少々困惑したような顔で答えた。
「別に……?友達が怪我したから一緒に来ただけだよ」
他の女子は男を前に同じことが言えるだろうか?男に褒められたら舞い上がって、もっと褒めて欲しいと話し出す奴が多いだろう。雪村はたった一言。それだけだった。
「そうか」
「……?」
やはり雪村しかいない。こんな人は今までも見たことないし、きっとこれからも見つからない。
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まさかこんな所で沙那ちゃんと美香ちゃんの手作り料理が食べれるとはありがたや、ありがたや。
昼飯を食べ終わったのでなつちゃんの姿を探す。怪我大丈夫かなぁ。
医務室に行くと氷嚢で足首を冷やしている、なつちゃんの姿があった。
「大丈夫?」
「うん。そんなに痛くないよ。帰りは普通に歩けると思う。ごめんね迷惑かけて」
なつちゃんが申し訳なさそうに謝ってきた。
「全然迷惑じゃないよ。むしろ役得っていうか」
「役得……?」
しまった口が滑った。なつちゃんに避けられたり引かれたりしたらショックで寝込みそうだから控えていたのに。
「いや、ほら、なつちゃんしっかりしてるから頼って欲しかったっていうか!別に支えるという名目で触ってたわけじゃないよ!」
「あはは、なにそれー」
ふー。良かったなんとか誤魔化せたようだな。
「雪村、あんた逃げれない相手にセクハラしてないでしょうね?」
「安藤ちゃん大丈夫?零に何もされてない?」
様子を見に来たであろう美香ちゃんと沙那ちゃんにあらぬ疑いを掛けられてしまった。俺がなつちゃんに何かするわけないだろ!
美香ちゃんとギャーギャー言い合っていると、ふと、視界の端に映ったなつちゃんの表情が暗かったのは気の所為だろうか?




