1.大遅刻の龍少女 ルージュ
城下町のとある一角。
モーテルのような建物。その一室。
「…zzz…zzz」
スヤスヤと寝息を立てる少女。
静かな部屋にカチ、カチと時計の音が
響く。
「…んぅ…」
彼女は目を覚ました。
「んぅぅ〜!はぁ…」
起き上がって伸びをする。
「んむぅ……うぇぇ!?嘘ぉ!?」
時計が指す時刻を見て寝ていたベッドから
転がり落ちる。
「あいたぁ!」
時刻はAM9:40。
この少女こそがロッソ達が待っている人物であるのだが、彼らが待ちぼうけしている間、
どうやらぐっすりだったようである。
バタバタと部屋を出る準備をして
勢いよくドアを開けて飛び出していく。
ああああああ!!!
もうもうもう!!!
なんで!!!なんで!!!なんでぇぇ!!!
こんな日に寝坊!?
いやぁぁぁぁぁ!!!!
怒られるぅぅ!!!!
うわぁぁぁぁん!!!!
半分に切られたリンゴを齧りながら
半泣きで城下町を走り抜けていく。
彼女の名前はルージュ・ドラント。
今日から王城で働く事になっているのだが、
盛大に寝坊をし、現在爆走真っ只中。
この全力疾走の様子をロッソ達は
王城から見ていたのである。
「はぁ…!はぁ…!つ、着いた…」
「おや?もしやルージュではありませんか?」
全力疾走してきたルージュを呼ぶ女性の声。
「あ…アズールさんだ…
おはよう…ございます…はぁ…はぁ…」
「はい、おはようございます。
お久しぶりですね。
今日からここでお仕事とは聞いていましたが…ふふ、どうやらお寝坊さんみたいですね。」
肩で息をしているルージュの状況を看破し
くすくすと笑う彼女の名前はアズール。
ルージュを幼い頃から知っている
顔馴染みである。
「相変わらずですね。
貴方らしいと言えば貴方らしいですが、
初日で遅刻はいけません。めっですよ?」
人差し指を突き出して
ルージュを宥める。
「はい…」
ルージュはしょぼんと肩を落とす。
「ですがまあ、そう気を落とさずに。
ロッソなら許してくれるでしょう。
こちらですよ。ついてきてください。」
アズールは優しくルージュを王城の中に
連れていく。
王城の中は静かで床と靴がぶつかる音だけが
響く。
「ロッソ、アズールです。
ルージュをお連れしました。」
コンコンと扉をノックして
中にいるロッソを呼ぶ。
「ああ、ありがとう。
折角だしアズールも入ってくれ。」
「はい。
さ、ルージュ。ロッソがお呼びですよ。」
ルージュはおそるおそる扉を開ける。
「失礼しまーす…」
部屋の中には王座に座るロッソの姿。
「やっと来たかルージュ。
ほら、おいで。」
呆れられてはいるようだが、
怒ってはない様子にルージュは安堵した。
「さて、何か言うことはあるかな?」
「ごめんなさぃぃぃ!!!!
怒らないで!!!許してぇぇぇ!!!」
ロッソに謁見するやいなや土下座のルージュ
その様子にロッソはまた軽く溜め息、
クリムとアズールは顔を見合わせて
くすくすと笑っていた。
「はぁ…全く…ほら、泣くな。怒ってないから。」
「ぐすぐす…ほんと?」
「ああ、お前は強い子だろ?
ほら、涙拭け。」
ぐいっと袖で涙を拭って顔を上げるルージュ
「よし、それでこそ俺の妹だ。」
ぐずるルージュの頭を優しく撫でる。
そうなのである。
ロッソとルージュは血のつながった実の兄妹である。
兄としては妹の泣いてるところなんて見たくはないし、怒りたくもないといったところか。
「さて、話を戻そうか。
ルー、ようこそ、グラウルグの王城に。
今日からここで働いてもらうんだけど、
お前に合いそうな仕事を用意してる。
同じ仕事をしてる人がもう1人いるから
その人の言う事をちゃんと聞いて、頑張ってくれよ。」
「はい!」
さっきまでべそかいてぐずっていた
彼女はどこへやら、元気よく返事をする。
その様子にロッソは笑みを浮かべて
ルージュをぎゅっと抱きしめた。
「…はは!!ルージュ!!!
ひっさしぶりだなぁ!元気してたか!?」
わしわしとルージュの頭を撫でる。
「うん!久しぶり!兄さん!」
ルージュも久しく会う兄の姿に
喜びを隠せない様子。
まるで太陽のようににかっと
明るい笑顔を見せる。
「ほらな。結局は甘いんだから。
とんだ兄バカだな、こりゃあ。」
どうやらクリムはこうなることが
目に見えていたようである。
「ええ、本当に、仲のいいことです。
ふふ、私も妹の顔が恋しくなりますね…」
ロッソ達の微笑ましい様子にアズールも
自分の妹を思う様子。
「はいはい、その辺にしときなよ。
ロッソ、時間も時間だ。
コハクのところに連れてってやんなよ。」
じゃれ合う2人を諌める。
「っと、そうだ。遅刻してたんだったな。」
そういえば、と。我に帰るロッソ
ロッソは自他共に認める超シスコンである。
妹の幸せを誰よりも何よりも願ってやまない。
「さて、初めましてだね。ルージュ。
アタシはクリムだ。アンタの事はお母さんから聞いてるよ。」
「あ、はい!初めまして!」
「うん、いい返事だ。
しっかり鍛えてやってくれって頼まれてるからね。強くなってお母さんびっくりさせてやんな!」
龍人達は各々が武器を持ち
その武器に合わせた戦闘技術を持つ。
総じて【龍戦技】と呼ばれ、そこから
様々な流派に分かれていく。
ルージュはその中の槍を扱う【龍槍術】を
使う。
ルージュの母親、つまるところロッソの母親でもあるのだが、現役を退いてはいるものの、龍槍術の大師範として有名な人物であり、クリムは彼女から直接指導を受けて、
現在では師範を務める人物である。
「今度手合わせしようじゃないか。
ヴァーミリアさん仕込みのアンタの腕前、
見せてもらうよ!」
「はい!宜しくお願いします!」
「楽しみにしてるよ。んじゃ、アズール。
後は任せていいかね?」
「はい、お任せください。
ロッソ。だそうです。後は私が。」
「ああ、宜しく。
じゃあルー。頑張れよ。
お前の先輩になる人はとても優しい人だから
気楽にな。」
「うん、わかった。」
「あー、それから…いや、いいか。
何でもない。じゃあ、頼むな、アズール。」
「さ、行きますよ。ルージュ。」
「はい、兄さん!またね!」
「ああ、しっかりな!」
2人は王の間を後にする。
1時間遅れのキャッスルライフが
今スタートする。
あ、どうも。豹上です。
第一話いかがなものでしょうか。
ここから続きを読みたいと思っていただけるような作品にできるよう頑張ります。
キャラ設定だけは大量に作ってあったので
多くのキャラクターが登場予定です。
2話以降も随時投稿していきますので
宜しくお願い致します。