知恵と死蔵の迷宮 その7
部屋が揺れた。
レーナが鎌を本に突き刺した瞬間にまるで悲鳴を上げるように部屋が揺れ、いくつかの本が棚から飛び出してきた。
そして黒は頭を激しく振り、レーナを振り払おうとしている。
「レーナ!」
私はその状況に思わず叫び走り出した。
顔は見えないが短い鎌の持ち手にしがみつき耐えているのが見える。
このままだと危険なので暴れる黒をなんとかしないと。
そう思い少し走ったところで黒の本が弾けた。
「くッ!」
弾けた衝撃でレーナが宙へ弾かれる。
黒はそれなりの大きさがあり、このままだとレーナは地面に叩きつけられると思い、足を早め必死に彼女の落ちてくる先へと掛けた。
「ッ!」
私がクッションになって飛んでくる彼女を歯を食いしばって後ろに倒れながら受け止める。
「っ…………大丈夫ですか?」
「こ、こっちの台詞だ。」
何故かこっちが心配されたが心配出来るぐらいなら大丈夫だろう。
受け止めた痛みに咳き込んでいると偶然黒の方へ視線が吸い込まれた。
武器を持つ5本の腕は項垂れ動く気配は見せないが左側の下2本の何も持たない腕が天に掲げるように上げ、何かを集めている。
いや、何かでは無い。あれはエーテルを集めている。
「まさか……。」
私が考える中で最悪な事が起きようとしている。
ある程度集まったエーテルを握り潰し視界が眩む程の閃光を発した。
その閃光は一瞬の間私の視界を覆い尽くしたがすぐに目を開ける事が出来た。
「嘘でしょ……。」
側にいたレーナが目の前の光景が信じられないような呟きをする。
それは私も同意見だ。
何せ黒の本は手がみるみると治っていき、紙が挟まっていく。
それはまるで何も無かったかというように元通りになってしまった。
「なんて事だ!」
私が苦虫を潰したような苦言を漏らす。
一撃を与えても何事も無かったかのように戻ってしまう。
あれではどうすることも出来ない。
「みんな!聞いてくれ!」
意気消沈しているときにトーマスの声が聞こえる。
「僕達が注意を引きつける!その間に左下の腕2本を切り落としてくれ!」
そんな無茶な!
「いきますよ。」
2人に撤回のお願いをしようとした時にレーナが私にやるよう促す。
「レーナ!」
「……良いですか?彼らは自分達にも危険が降りかかると承知の上であのような提案をしたのです。彼らの安否を気に掛けるなら早めにやる事やりましょう。」
「……分かった。」
不本意であるが彼女の言い分は正しいのだろう。
「……まぁ良い。私も積極的にあの本を狙って気を引きつけます。あなたは腕を。私では腕を断ち切るのは難しいですから。頼みましたよ。」
そう言い、彼女は黒へ駆け出した。
集中しろ。
私はゆっくりと息を吸い、吐き出した。
シンユー曰く集中したい時は深呼吸をすれば良いと。
良し。決めた。腕を斬る。それが今私がやるべき事だ。
私は黒へ駆け出した。
先に行っているレーナがその身のこなしで払い除けようとしてくる剣や鎌を躱し続ける。
そこに私も加わろうとするとそれを阻むように杖を向けてくる。
あれは一発一発が恐ろしい一撃を持っている。
なんとしてでも避けなければ。
だが、距離が離れているからなのか私が大きく横に移動しても少しも杖先が私から外れない。
「くッ!」
せめて受けても耐えれる盾が欲しい。
魔法を使うか?
いや、魔法はよそう。
家にいた時使った時、使っただけで少し疲れたのに今使ったらどうなるか分からない。
じゃあどうすれば!
そう考えている時に横の方からガラスの壊れる音が響き、水面に水滴が落ちるように黒の腕に何かが当たっている。
「こっちだ!」
視線を少し外して声の方を見るとトーマスとクーちゃんがいた。
トーマスはその場に留まりながら杖を撃ち、クーちゃんはトーマスから離れながら移動しては撃って弾を込めるという事をしている。
さっき言ってた囮をしてくれている。
なら、私も早く決着を決めないと!
『力よ!-ボンピィア-』
何故。魔法と魔術を分けているのかは理由がある。
皆はどうしてそうなのかは分からない。
だが、私にはちゃんと理由がある。
魔術は魔法に比べて見劣りするのは認める。
だが、もう一つある。
それは魔法と魔術は同時に使用出来るからだ。
「--」
全身に駆け抜ける熱い衝動叫びたくなるような高揚感。
あぁ-。早く斬らせろ!
私は黒との距離を一気に詰める。
あぁ、なんと心地良い!
魔法を使って走るよりもこっちの方が速い。
私の行動に即座に反応した杖を持った腕が小指側で殴り掛かる。
杖で殴ってくるとはあまり余裕は無い様だな。
なら-
私は剣を顔に対して水平に構えて腕に突き刺す。
少し踏ん張って剣を挿したら後は足を離して剣にしがみつく。
『その身に記して挙げましょう!敗北を!』
私は高揚感から来る高まりを笑いながら斬りつつ根本へ駆け抜ける。
根本-
根本ねぇ。
『肩付けて差し上げましょう!』
マナーを教わる際に鳥の骨は関節部が折りやすいと教わった。
なら骨もなさそうなこいつなら根本が切り落としやすいでしょう!
私はお目当ての何も持っていない腕に辿り着くと斬り上げ、振り下ろしを千切れるまで笑いながら何度も行った。
腕が千切れた瞬間、黒の体は震え、腕は地面に落ち、地を僅かに揺らす。
『ふむ。服を汚さなかった事は褒めてあげる。』
私が心からの褒め言葉を呟いた時、もう一本腕が上がりエーテルを集め出している。
これは……腕を治そうとしてるのかな?
『人の努力を邪魔するのはムカつくのだけど。』
私は剣を強く握り、持ち上がる腕を足場に高く飛び上がる。
『天からの贈り物だ!』
私は振り上げた剣を落下する力も加えて黒の腕を半ばまで断ち切る。




