知恵と死蔵の迷宮 その5
「ゼェ……ハァ……」
皆肩で息を吸うように深く疲労を感じさせるような呼吸をする。
あれから死に物狂いで光が吸われる先に走り、なんとか階段に辿り着き、転げ落ちるように階段を降り、今は階段を降りた先のちょっとした広い空間で休んでいる。
私とクーちゃんは地面に座り込み、レーナは片膝を付いて休み、トーマスは両手を両膝に付く形で休んでいる。
疲れた。
クーちゃんの助けがあったとはいえ必死の逃走だ。
流石に疲れた。
「みんな〜。だいじょ〜ぶ〜?」
クーちゃんの問いに私とトーマスはそれぞれ大丈夫だと返す。
「大丈夫そうならさっさと進みましょう。ここにいつまでも居られないのですから。」
「あぁ。同感だ。こんな所早く出たいよ。」
「私はお腹空いた〜。」
「私はもうベットに寝たい。」
「それじゃ、行こうか。立てるか?クラリス。」
4人それぞれがダンジョンから出たい意思を示した所でトーマスが座り込んでいるクーちゃんへ手を差し出す。
「うん。ありがとう。」
クーちゃんはトーマスの手を掴み立ち上がる。
そうだね。いつまでもこんな所にいるわけにはいかないから。
私は自分の力だけで立ち上がった。
体の調子は……だいぶ戻って来たが体がまだ重く感じて本調子では無いが大丈夫だろう。
「リーティエ。大丈夫なのか?」
「うん。なんとか。」
クーちゃんが「よかった〜」と言って飛びつこうとするがトーマスがそんな彼女の襟首を掴んで静止させる。良かった。
まだ本調子じゃないからどうなってたやら。
「…………戯れ付くのは後にして……リーティエ。最後尾をお願いして良いでしょうか?アイックス2人は援護を。」
アイックス?何の事だろか?
疑問に思い知ってそうな2人の方を見るとトーマスは不思議そうな顔をしているがクーちゃんは頬を赤らめアワアワと落ち着きがない様子だ。
どうしたのだろうか?
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「何でしょうか?あれは?」
休憩後、ここまで黒と出会わず、一本道を進み少し歩いた所で先頭のレーナが驚愕を含んだ呟きが聞こえた。
どうしたのだろうか?
進行方向に目を向けるとその先には扉が見えた。
そう。ただの扉だ。
今まで出入り口でしか見てない扉が少し離れた先に煉瓦の壁に取り付けてあった。
「あれて!まさか!」
「あぁ!きっとあれが出口だだろう!」
「良かった。これで帰れる。」
レーナを除いた私達3人で喜んだ。
これで帰れる。
「待って下さい。」
私達が喜んでいるとレーナがピシャリと注意するような声を出す。
「今まであんな扉なんて出て来なかったのに急に出てくるのは不自然では無いでしょうか?慎重に近づいた方が得策かと。」
「確かに。その方が良いね。慎重に行こうか。」
その後、慎重に(速度は跳ねるカエルぐらい)扉の前に行くも何も起きなかった。
「…………何も起きなかったね。」
「これは……何も無いんじゃ?」
「待って!」
私の意見に今度はクーちゃんが止める。
「どうしたの?」
「私、聞いた事があるんだよ。前にお客さんが遊んだ後に家に帰って、扉を開けた瞬間掴まれて家の中に引き込まれた。て。だから慎重に開けた方が良いよ。」
「…………その引き込まれた人はどうしたの?」
「あぁ!その人なら顔に包帯巻いて右腕を首から吊った状態でさっきの話を笑いながらしてたよ!」
……そんな非日常な場所からよく生きてられたな。
私はその生存能力に関心をする。
「……僕が行こう。皆は何かあった時にすぐに対応出来るようにしていてくれ。」
私とレーナが武器を抜きいつでも戦えるようにし、クーちゃんは彼女の小さな手でも扱える杖を抜いて空いた手でトーマスの上着の裾を掴む。
トーマスが中に引き込まれても大丈夫なようにだろう。
私もクーちゃんに一声かけて片手を彼女の肩に置く。
「行くよ!」
トーマスが声を掛け、扉をゆっくりと開ける。
扉はキー。と軋む音を響かせ開けられた。
それからトーマスが両手で杖を握り、構えた状態でゆっくりと入っていく。
それに続くように私達も中へ入る。
部屋の中はやはり壁一面を本棚に囲まれており、私達が入って来た扉とは反対側にもう一つ扉があり、中央には少し長めの机と椅子が置かれており、机の上に瓶が複数乗せられている。
「…………とりあえず敵は居なさそうだね。」
「ふーん?このテーブルも椅子もただの木の奴のようだね。」
「この本棚は……本が取れないように固定されてます。見せ掛けですね。」
皆が思い思いに部屋を調べ出す。
私もこの部屋で気になっていた瓶の所へ行く。
瓶は同じ物が4本机の上に置かれている。
瓶に触れようと指を近づけた時に指に冷気を感じた。
何だろうか?
私はそっと指を触れる。
瓶は私が握れる太さであり凝った形状をしており、触っただけで冷たさを感じられ、中には何か透明な液体が入ってる。
中身を確認する為、蓋の部分を引っ張っても蓋は開かない。
「どうすれば良いのだろうか?」
「あ!もしかしてだけど!」
クーちゃんが断りを入れてから私から瓶を取り片手で瓶を片手で蓋を握りそれぞれ反対方向に捻る。
すると蓋が開いていく。
「うん!開いた!」
そう言うと瓶の縁から少し鼻を離してスンスンと音を鳴らす。
「匂いは……無い。」
続いて瓶を軽く傾けて薬指の先端に私が止める間もなく少し掛ける。
「何か違和感は……無い。」
そう言うと濡らした薬指を口に入れた。
「うん!これは水だね!」
水……なのか。
それよりも-
「クーちゃん。体は大丈夫?」
「何。大丈夫さ。」
私がクーちゃんの体調を心配して聞くとクーちゃんの代わりにトーマスが答えた。
「クラリスはレイラさんに毒見を仕込まれているからね。僕も参考にさせて貰ったよ。」
毒見……
「そう!毒見は乙女の嗜みだからね!」
そんなの聞いた事がない。
それから、私はクーちゃんに教わりながら毒見をした。
その時、レーナも机の向かい側で見様見真似で毒見をしていた。
「うん!皆が飲める水を持ったね!」
皆の飲む分を確保するとクーちゃんがそう言う。
今更何だろうか?
「それじゃお手を拝して。」
「ね、ねぇクーちゃん何をしようとしてるの?」
私は率直な質問をする。
「んー?それはねぇ。せっかくみんなで飲むのだから乾杯でもしておこうと思ってね。」
乾杯。
飲む前の一種の儀式。
よく店でやってる人がいる盃をぶつけるあれだ。
「それは今やらなくも良いのではないでしょうか?」
レーナが私も思った疑問を質問する。
「うんん。むしろ今、やらないとこの先後悔する事になるかも知れないからね。だから出来るだけ思い出は多くないと。」
「……」
確かにそうかもしれない。
人はいつの間にか死ぬ。
ミッド、アン、ラックだってそうだ。
今でもどうしたらあんな事にならなかったかを考える。
私は瓶を上げていつでも乾杯出来るようにする。
「あぁ。そうだな。無事に脱出出来るように。」
トーマスも私に続いて瓶を持ち上げる。
「はぁー。わかりました。」
レーナも瓶を持ち上げて準備をする。
「それじゃ!無事に脱出出来るように!乾杯!」
お互いの瓶を打ちつけて乾杯をし、中の水を飲む。
水は普段飲んでる硬い水とは違いまろやかで冷たく、飲み心地がいいものだ。
恐らくこの水は後になっても忘れる事は無いだろう。




