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知恵と死◾️の迷宮 その1

『うわあああああ!』


少しの落下の感覚の後に軽くぶつかるような衝撃を体全体に受ける。


『いてて、いったい何が起きたんだ?』


トーマスが扉を開けた時に突然扉から出てきた物に捕まってそのまま扉の中に引き寄せられて今に至る。

訳が分からない。


「いったた。みんなは大丈夫か!?」


トーマスが体調を尋ねてくれたので私とクーちゃんは無事である事を伝え、レーナに関しては手を挙げて無事である事を伝えた。


「皆が無事で良かった。それにしてもいったい何が起きているんだ?レーナさんは何か知ってる?」


「いいえ。こんな事が起きるなんて聞いた事もありません。」


「そんな事よりどうやって帰るの?」


クーちゃんに言われ私は周りを見回す。

今私達が居るのは十字路の中心におり、それぞれの道は行き止まりは無いが曲がっていてその先を見る事も出来ない。

頭上には入った時から変わらず本棚が伸びており天井は見えない。


「いったい何が起こって-」

「うわあああああ!」


トーマスが疑問を投げかけようとするのを遮るように悲鳴が響いてきた。

その方へ視線を向けると曲がり角から誰かが息を切らしながら掛けてくる。


あれはさっきの、


「ディサッパー家の!」


思いがけない人物が現れた事に困惑してる間にも彼はこちらへと走って向かってくる。


「こんな所で死んでたまるか!こんなところで!」


彼は突然転び地面に顔を打ち付ける。

普段なら彼に大丈夫かと尋ねに行くだろう。

だが、私達誰一人として動けなかった。

何せ、彼の後ろから体格の大きい、そう近くの四段ある本棚が縦に四つ積んだのと同じ高さの人の形をした黒いまるで生き物だと思えない化け物が四足歩行で足音も無く馬のような速さで迫ってきていたのだから。


「うぐげ!」


私達が慄いていると男がその化け物の大きな手に捕まれ顔の近くまで持っていた。


「やめろ!離せ!死にたくない!」


その行動からまさか食べるのかと嫌な予想をしてしまうが、それは違うとすぐに理解してしまった。

なにせ私達に見えるように顔に当たる部分に向こう側が見える穴が開き、その穴を男に向け、掴んでいた男を振り出した。


一連の行動に理解出来ずに固まっていると男は苦しむような叫び声を上げだした。

なんだ?

そう思っていると男の体から黒い砂のような物がさらさらと零れて穴の中へと落ち行く。

なんだ?何が起きている?


私が戸惑っていると男が叫ぶ。


「嫌だ!死にたくない!俺は……!消えたくない!俺は家の!いや、いやだ!いや!俺は!俺は!幸せでありたいんだああああ!」


彼は絶叫を上げたあと、全身を砂にして穴の中へと入っていった。


「きゃああああ!」


クーちゃんの叫び声が響く。

それに体の強張りが消え、震える手で剣を掴む。

戦わないと!

戦わないと!

戦わないと!

生きる為に戦わないと!


「リーティエ!」


戦わないといけないと思っている時に声を掛けられ肩を叩かれる。

それに驚きつつ振り返る。

そこにはトーマスがいた。


「逃げるよ!」


「でも-」

「良いから!」


私の意見を否定するように大きな声を出した。

今は逸れるのはまずい。

クーちゃんの方へ行くトーマスを見送りつつ逃げ道を探している。

鎌を取り出し、鋭い視線で化け物を睨むレーナが目に入った。

彼女もさっきの私と同じで生きる為に戦おうとしているのだろう。

だけど-


「待って。」


私は彼女の腕を掴んだ。


「…………離してください。あの化け物をやるとしたら今なんです。」


そう言われ化け物の方を見ると化け物は天を仰いだまま動かないでいる。

確かにやるとしたら今だろう。

だが-


「……逃げるよ。」


「逃げる?あの化け物を知るには今が好機です。」


知る?

あの化け物を知ってどうするのか?

そう思ったが今はそれどころでは無い。


「あの化け物と戦っても勝機が薄い。」


「いいえ。叩き続ければいずれ死にます。」


「あの化け物は生きてるのかも怪しい!」


私のその言葉に全身を滾らせていた力が僅かに緩める。


「あれを見る限り生き物と思えない。だから。死ぬのかも怪しい。……だから……逃げよう。」


私は震える手に力を込めてより強くレーナを掴む。


「…………分かりました。行きましょう。」


私はその言葉に強張った自分の体の力が少し緩んだのが感じられた。


「みんな!こっちだ!」


そこでトーマスが声を掛けてきた。

彼は震えるクーちゃんを背負っている。


「行こう。」


彼女が頷くのを確認して周りを警戒しつつ彼の後へと続いていく。


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「クラリス。大丈夫か?」


「うん。休んだから大丈夫。」


クーちゃんは大丈夫そうだ。

あれから私達は無事に逃げ延び、棚と棚の感覚が異様に狭い物陰に隠れている。


「それにしてもあの化け物は何だろうね?」


「いや、それどころかあの化け物がいるここは何だ!これじゃあまるで-」

「ダンジョン。」


トーマスが静かな怒りを滲ませながら疑問を口にしているとレーナが呟くようにしかしはっきりと答える。


「やっぱり。」


私は肯定するようにそして問うように聞く。


「えぇ。先の見えない道。襲い来る化け物後は……とりあえず話に聞くダンジョンで間違いないかと。」


「しかし、何故このような事が、さっきみたいな……」


トーマスがそこで話すのをやめる。

どうしたのだろうか?


「…………ねぇ、さっき消えた人()()()()()だったけ?」


突然そう尋ねてくる。


「何を……」


私がさっきの人を伝えようとするが()()()()()()()()()


特徴も、名前も、性別も。


「ねぇ、3人とももしかしてさっきの人て消えちゃったの?」


クーちゃんのその確信とも取れる問いに私は恐怖を覚える。

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