ディポイン ディフェ ホン ディフィ シニディフォン
朝、私はいつもこの時間は体を鍛えてる。
これはお父様の教えだ。
朝、体を動かせばその日1日は気持ちよく動けると教わっている。
それで本来なら今日はヒューゴの所で修練をする日だが、急遽の予定で午後は行けないので朝からここで剣を振っている。
「そこ!」
「おっと。」
私はシンチュリーの横薙ぎを回りながら後ろで受け止めて回りながら木剣を打ち込む。
「なんの!」
彼は手首を返して下から剣を掬うように弾く。
流石だ。
私も手首を返して頭上に刃先で円を描き、振り下ろす。
それに対して彼は木剣で受け止め-
「?!」
彼は私の剣を受け流した。
このままじゃ体勢を崩され、いや。
私は自分から体勢を崩し空中で一回転する。
その際木剣も振りシンチュリーが追撃を躊躇うようにする。
これで追撃を免れた。
さて、これからどうしようか。
そう考えた時に何処からか拍手が聞こえた。
気を緩めず拍手が聞こえる方を見ると緑色の長い髪にくだけただらしない格好の私よりも年上の女性が長椅子に腰掛けながら拍手をしている。
「あんた。やるじゃない。大人ともやり合えるそいつを同世代でやるなんて見込みがあるわ。」
誰だろうか?
「姉さん。毎回言ってるけどちゃんとした格好をしてよ!」
姉、という事は彼女は彼の姉なのだろう。
「はーい。私はアデラインよ!シンチュリーの従兄弟ですよ〜。よろしく〜。」
私の疑問の視線に気が付いたのかシンチュリーの頭に抱きつきながら自己紹介をする。
「臭いよ!酒臭い!まさか、また飲んだの!?」
彼はアデラインの腕を振り解きこちらに逃げてきた。
「キャハハハ!仕事終わりには飲まないと明日に響くのよ!」
「いやいや。姉さんは定職に就かず家でゴロゴロしてるだけでは?」
「いい?人間、いや生物の1番の仕事てなんだと思う?」
唐突に質問を出してきた。
「…………生きる糧を得る事。」
「はいブー!それは大事だけどもっと大事な事があります!」
シンチュリーの解答に手をクロスして不正解である事を伝える。
……シンチュリーが何か言いたそうな顔をしてる。
「はい!そこの貴方!」
アデラインが私を指差し、答えるよう促す。
なんだろうか?
私が答えを出せないでいるとアデラインが答えてくれた。
「正解は生きる事でーす!死んじゃダメだし、命を捨ててやる事なんて間違っているだから生きるのが仕事。」
なるほど。確かにそうかも。
「だから私は今働いてるのよ。」
そう言い彼女は長椅子に寝転ぶ。
「これとそれとは違うんじゃないのかな?」
「そうじゃ。いつも寝るのか鍛えるのかどっちかにしろと行っておるじゃろう。」
私の背後から聞き覚えのある声が聞こえたので振り返るとそこにヒューゴが呆れた顔でそこにいた。
「お、お爺さまだ。変わりない?」
アデラインが寝転がった状態のままヒューゴに尋ねる。
「アディよ。人と話す時は寝っ転がって話すなんて教えた事ないぞ。」
「キャハハハハ!良いの!良いの!仕事疲れで寝てたいの。」
ヒューゴが溜息を吐き、私達二人を手招きで呼ぶ。
私達が近づくと彼は小声で話しだした。
「あれが俗に言うだめな大人じゃ。お主達はああなるなよ。」
「えぇ、当然です。」
「分かった。」
もし、私があんな態度を取ればお父様は怒りお兄様は呆れ…………るのかな?
「ちょっと!今何か良からぬ事を言ったでしょう!それよりお爺さま。何か用があるのでは?」
「あぁ、そろそろ魔導剣でも降らせようかと思ってな。」
魔導剣を……少し興味が出た。
やってみよう。
その後、以前ヒューゴが鉄の棒を斬ったところへ私達四人は移動した。
前回とは違い、今はその場所に前よりも太い棒が5本二組で並べられていた。
「まずは力試しだ。これでどれぐらい魔導剣を理解してるか分かる。ほれ、試しにシンチュリーやってみろ。」
ヒューゴが自らの剣を抜きシンチュリーに渡す。
「分かりました。」
シンチュリーが剣を受け取り、シリンダーと呼ばれる部品を操作している。
何をしてるんだろうか。
「わしはな。試し斬りのさいに必要な事をさせている。」
ヒューゴが隣で説明をする。
必要な事?
「まず、シリンダーの中に弾が入ってないか、確認する事。これは魔導杖でも同じ事。入ってないと思っていて操作して事故が起きてしまう事がある。それを未然に防ぐ為に必ず確認させてる。」
「お爺さま。確認出来ました。」
「おう。」
シンチュリーの返事を聞くと魔石弾を投げてよこした。
それを受け取ると確認して弾をシリンダーに入れ、構える。
「魔導剣は基本一発10秒の間エーテルを剣に纏わせる。だが纏うエーテルの量は変わっていく。」
シンチュリーはトリガーを引き、剣を振り下ろす。
剣は五本目で刃を止まった。
「あの棒はエーテルを弾く銀で出来ておる。じゃからあの通り、銀の抵抗でエーテルが衰えて途中で止まってしまう。そこでエーテルが最大になるタイミングで振り切るように振ればいいのじゃ。」
なんだ簡単ではないか。
「今、簡単と思ったじゃろう。」
…………見透かされている。
「その最大になるタイミングというのが魔導剣によってそれぞれ違うんじゃ。それを見極めて振るというのが大変難しい。まぁこれは一つの剣を長年振って見極めて感覚として慣れていくというのが大切じゃ。」
「シンチュリー!ナイスファイ!」
説明が終わるとアデラインが声を掛ける。
「今回もダメでした。」
「前回と比べたらいい感じに出来たわよ。」
「ほれ。次はお主が振ってみろ。」
ヒューゴが促したのでシンチュリーから魔導剣を受け取る。
「聞きたいけど良い?」
私はシンチュリーに尋ねる。
「ん?どうしたの?」
「斬った時の感覚はどうだったの?」
「え?」
私の質問に虚を突かれた後、少し考えた後に答えた。
「途中までは水を掻き分けるように斬れていくけど途中で重くなって最後には硬い物が当たったように止まった。」
「そう。ありがとう。」
シンチュリーの言葉を聞き、別の棒の所へ向かった。
私は見様見真似でシリンダーの蓋を開けて中身を確認する。
カチカチとシリンダーを回すごとに鳴り響く。
シリンダーの穴から覗く景色全て芝生の緑を写す。
全て空だな。
「確認した。」
「おう、わかった。ほれ。」
先程と同じようにヒューゴが弾を投げて寄越すのでキャッチする。
それを確認し、エーテルが満たされているのを確認してシリンダーに入れて蓋を閉める。
「わしらが採用している魔導剣はシリンダーが時計周りに動くように設計されている。じゃから弾を撃鉄の1つ左側にまで動かせ。」
私はその指示通りにシリンダーを動かし、構える。
今回は横に一気に斬る為、鍔いや、シリンダーをこめかみまで持って行き刃先を空へと向ける構えを取る。
構えたまま深く息を吸い、止める。
準備は出来た。
引き金を引く。
私にとってヒューゴの言葉に納得出来なかった。
だって見て分かるのに感覚で慣れろというのが理解出来なかった。
今だってそうだ火のように青いエーテルが刀身から少しずつ勢いを増しながら溢れ出てる。
それにさっきも見てるから引き金を引いてから6秒後に最大になる。
だからそれに合わせるように振れば。
5本全てを斬った時に銀の棒はバラバラに崩れ、互いにぶつかり、音を立てながら落ちた。
よし。出来たな。
私は一息ついて剣を鞘に……おっと。この剣の鞘は無いんだった。
「……ねぇ、今、どうやってやったの?」
剣を鞘にしまおうとした時にシンチュリーが戸惑いを含んだ質問を私に投げかけた。
何て。
「エーテルが剣が噴き出す?ていう言葉で良いのかな?とにかくそんな感じで見えたから最大の所で振り斬れるように剣を振っただけ。」
「いや。それは無いよ。だってエーテルは見えないんだから。」
「え?」
私は思わず声を出して驚いた。
だって今まで見えていた物が実は見えないて言われれば誰だって驚く。
「いや、それは無い。だって魔導剣が撃鉄を叩いた時や杖からエーテルの塊が飛んでくるのを見た事がある。」
「いや。無い。見えないんだからそんな事が起きるなんて分からないよ。」
それから見える見えないの論争を繰り広げ、途中アデラインの剣からどんな色のエーテルが噴き出しているか聞かれて、その後も議論が図書室に移ってもそれは続いた。
面倒だからこれからは言わないようにしよう。




