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ハトンシュ ラメレハタレ レタレブ

「ふー、なんとかなって良かったー!」


ナーラがそう言っ踊るように喜んでいる。

先程、屋敷に帰った所昨日、食堂のお婆さんが何やらくじ引きで当たったとの事で旅行に行く準備の為、今日は食堂はお休み。

授業は元々ダンフォード様夫妻が出掛けるとの事で無く、今日は自習と自己鍛錬をしようと思っていたが屋敷の正門前でナーラが騒いでいたので連れ出した。

(彼女曰く空き時間の間に名声を高めようと演奏しようとしたとの事。それを聞いた瞬間に考えるより先に頭を叩いていた。)


「それでどこに行くんだ?」


私は呆れながら彼女に尋ねる。


「当初の目的通り!名声を高めるぜ!」


「だからどうやってやるんだ。」


「ふふっふ!さっきは怒る人が居たから演奏出来なかったんだ。ならやって良い所でやれば良い!」


しかも初めてという事で知名度上がるだろうしと小声で微笑みながら呟いた。

私にとってその微笑みは胸がざわつくような嫌な予感がする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今、私達はテームズ川南岸にあるとある建物の前に立っている。

その建物は三階建てで外壁は曲がっていて円の形になっている事を簡単に想像出来る。


「ここは?」


「ここはシアター•クローブ。ここの都市で唯一の屋外ステージだ。ここなら気持ちよく演奏出来て有名になれる一石二鳥だ。」


そうはしゃぎながら両手を握り腕を挙げる。


「さぁ、行こう!」


私が疑問を投げかける前に歩みだしてしまった。

この建物の主に演奏して良いのか聞いたのだろうか?


それから数分後その予想は大方的中していた。


「えー!中に入れない!」


今はこの建物の入口で門番をしている男性とナーラが揉めている。


「当たり前だ。関係者以外立入禁止だ。」


「そこを何とか!」


「知らん!顔を知らない奴を劇場に入れる訳ないだろう。」


「顔を知らない?なら問題ないな!」


ナーラが門番から離れると手の平を太陽に向ける。


「ある時、彼女は虚無に包まれた人々の前に現れ人々の心を照らした!ある時、彼女は苦難に立ち向かう旅人を風に歌を乗せて道標を示した。」


彼女は静かな舞を披露しながら語りだす。

その舞はこの場にいる全ての人を引き付け、輝いているようだ。

その舞を見た門番がまさか!と呟き、私は唾を飲み込んだ。


「そう!その人物とは!」


場の空気の高まりが最高潮になる。


「俺の姉だ!!」










「へ?」


姉?

自分ではなく?


場の空気が静まり返った。


「…………それであんたは?」


「俺はその2人の妹だ!ほらほらアンタも姉の顔を絶対見た事あるから俺の顔もピンっと来るだろう?」


「知らねぇよ!見ず知らずのガキの姉貴の事なんて知るか!」


「何をー!」


「どうしたの?」


入り口で呆れながらナーラと男性の言い争いを見てると背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

この声は。


「クーちゃん?」


私は振り向きながら尋ねた。

振り向いた先には微笑みを浮かべたクーちゃんが居た。


「あれ〜?どうしたの〜?劇場に来るなんて聞いてないしー。あ!もしかして演劇に興味を持ったの〜?」


「いや、そういうのじゃなくて今はこの娘に連れ回されている。」


そう説明し、後ろで言い争っているナーラを親指で指す。


「あー。クラリス。お前の知り合いか?悪いがこのお嬢様にお引き取りをお願いしてくれないか?」


男性は私と話すクーちゃんを見てお願いする。


「うん。わかった〜。」


クーちゃんが返事をするとナーラの元へ歩いて行った。


「ねぇー。ちょっと良い?」


「ん?なんだ?」


「あなた……。えーと?」


「ナーラと呼んでくれ。」


「そう。ナーラさんて言うんだ〜。ナーラさんはなんでここに入りたいの?」


「良くぞ聞いてくれた!それは誰も聞いた事が無い音楽を演奏する為さ!」


ナーラは目的を訊いてくれた事が嬉しかったのか嬉々とした表情で答える。


「聞いたことが無い音楽?」


「言葉で伝えるより魂で伝えた方が速い!」


そう言うとまた光の中からさっきの楽器を取り出し、私が止める間も無く弾き始めた。

再び辺り一面に雷鳴に似た音響が響き、空気を揺らし体を揺らす。


やがて終わりを告げる音色を奏で演奏を終えた。

彼女は満足そうな笑みをこちらに向けている。


私はため息を吐いて今後を考える。

また騎士が来るだろうな。

今度は連れて行かれないようにクーちゃんの側に居ようか。

そう考えているとすぐ側から拍手が聞こえて来た。

拍手の方を向くとクーちゃんが品がありながらも何かしらの意図があるのではと思わせる笑顔で拍手をしていた。


「すごーい!お店でたまにやってる演奏と違って激しくてそう反抗心。何か上の立場の人に対する怒りを感じる。」


「そう!そうだよ!上の命令にただ従っているのなんてふざけんなて思ってるよ!そんな魂の叫びを感じられるなんていいね!ファン2号!」


「私はファンじゃないよー。でもこれからあなたを応援する人を増やせる方法があるとしたらどうする?」


クーちゃんが視線を惹いてやまない魅惑的な笑顔でナーラに問いかける。

……何をするんだろうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「音楽とは雰囲気を作る事である。」


ここは劇場の中。

天井の中心部が空いていて青空が見えていて、階段状の場所にたくさんの椅子がいくつかの列に並べられて全て劇場中央にあるステージに向けられている。


そんな中ステージ上でイージオンが説明をしている。


「華やかな社交会で悲壮感溢れる音楽を流さないように場面によって相応しい音楽がある。そこで」


イージオンはピーンと伸ばした人差し指を同じくステージに乗っているナーラに指を指す。


「君にはこれから私が要望する状況にあった曲を弾いてくれ。」


「ふふふ!俺に挑戦とは随分とでかく出たな!人間!」


ラーナが大仰しく返事をする。

あんたも人間だろう。


「テーマは親しい2人がすれ違いにより別々の道へ進むだ。」


「なるほどそれなら良いのがある。それを練習して–」


「ただし!」


ラーナの言葉を遮り、イージオンが話す。


「君には今!ここで!弾いてもらう。」


「え!?」


私の隣でステージを眺めていたクーちゃんが驚愕の声を上げる。


「何をそんなに驚いてるの?」


私はクーちゃんに尋ねる。


「だって今すぐやるように言われてるんだよ!それは今すぐ練習せず演技をしろ。地図を見ずに遠方へ行くようなものだよ!」


地図を見ずに……!

それは大変だ。

不安に思いナーラの方を見ると彼女は俯いていた。

大丈夫だろうか?

心配してるとナーラが夏空の鋭い日差しのような笑顔で顔を上げる。


「ククク!良い!良いね!その挑戦乗った!」


ナーラは拳を向けイージオンに宣言する。


「ふん!良かろう!では始めて貰おう。」


そう言いイージオンはステージを降り、流れるように目の前の椅子に足を組んで優雅に座る。


私はイージオンからナーラへ視線を向ける。

今回のお題は今まで弾いてきた暴力的な演奏とは正反対であるが大丈夫だろうか?

彼女は彼女は右手を胸に当て、ゆっくりと楽器へ添える。


演奏が始まった。

さっきまでのかき鳴らすような演奏ではなくまるで物語を綴るように静かにだが一つの違いによりすれ違いそれぞれ離れていく。

そんな物悲しい雰囲気の演奏だった。


最後に幸あれと思わす音色を奏で演奏を終えた。


「はい。これ。」


演奏を終えてからしばらく経つとクーちゃんがハンカチを私の目の前に出した。


「ど、どうしたの?」


「だってリーちゃん泣いてるよ。」


彼女は微笑みながらそう述べる。

私が泣いている?

私は瞼に触れる。

瞼の下には熱く熱を持った液体が付いていた。


え?私、なんで泣いてるんだろう。


「ふー。どうよ!審査員さん!俺の曲は!」


私が戸惑っているとナーラがイージオンへ尋ねる。

イージオンは少し思案した後口を開く。


「率直に言おう。良かった。と」


彼女が表情が緩んだ笑顔を見せるがイージオンが手を上げて静止する。


「見事。私の課題に答えた。君の音色は私の求めた音楽を奏でてくれた。是非とも協力を求めたい!だが、」


イージオンが話しを区切る。

その様子にナーラが不満げな表情をする。


「君を劇団に迎えられない。」


「何でさ!」


ナーラの指摘には私も同感だ。

あんなに称賛したのだから迎え入れても良いのに。

そう思っているとイージオンがまた手を上げる。


「確かに良かった。だが、タイミングが悪かった。今度やる劇は、配役・舞台・台詞・そして楽曲が決まっている。もはや走り出した列車のように止まれないのだ。」


その言葉を聞いて彼女は心配になるほど気分が沈み肩を落とす。


「だが、」


沈んだ空気をひっくり返すようにイージオンが言葉を続ける。


「今は出来なくても次なら出来る。」


彼はそう言いステージへ階段を使って上がる。


「どうか。次の劇に君の力を貸してくれないだろうか。」


同じステージに立ったイージオンがナーラへ握手を求めるように手を差し出す。


「へへッ。」


彼女は一度笑ってからイージオンに顔向ける。


「悪いな。俺は突然現れて辺りに忘れられない記憶を残して去って行く。そんな生き方が性に合ってるんだ。遠慮するよ。ただ–」


そう言い彼の手を握り握手する。


「いずれ長いこと、ここに居るような時は知らせるよ。その時はよろしく。」


彼らは硬く握手してお互いを理解した。


その後好きに弾いてみる事になり、それにより実際に劇場を揺らす程の演奏を行った。

初めて地面が揺れる感覚を味わい私とクーちゃんは戦々恐々とし、イージオンに至っては頭を抱えていた。

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