動きだす前の静止~新生活する上で最初はめんどくさいがやれば自然と出来るというやるまでがすごいめんどい~
お知らせです。
とあるキャラの名前が被ってたので変更しました。
申し訳ありません。
イエツィア歴1837年9月始め頃。
思い出の中にあった、まだ人はたくさんいて治安が良く、栄えていた首都クラウディウス。
乗っている馬車が停止したタイミングで私は御者に向けてノックする。
「はい。何でしょうか?お嬢様?」
「出かけるわ。」
「はい?」
御者の戸惑いを無視して馬車を降りて歩道まで渡る。
私の名はパトリシア・ウォルドグレイヴ。
古くからある貴族であり、現財務大臣である父の一人娘でありますわ。
前は27歳ではあったが今は10歳でありますわ。
何故、そんな妙な事を仰りますかと?
それはですわね。
実は私未来の記憶がありますの!
あれは冬の寒さが残りつつも暖かくもある五か月前の春。
我が家には昔ダンジョンに潜った冒険者から献上されたリジェレナティオの石がありますの。
献上する際にこう進言したとの事。
その冒険者曰くダンジョン最奥にいる精霊からもらったとの事。
そして、この石は我がウォルドグレイヴ家の直系の女性が身に着けてもらいたいとの事。
そうすれば石が身代わりとなって災厄から守ってくれるとの事。
そんな由緒ある宝玉をあしらった首飾りを五か月前に私が受け継ぎましたの。
そしたら宝玉が砕けると同時に突然記憶が流れてきましたの。
流れてくる記憶に耐えられず気絶してしまい、気が付くと今から未来の記憶が私にありました。
それは私はこの皇国の将来の皇にして現在の皇子クラウディオ・アレクサンドルに惚れて妻になった。
だが、彼は私に見向きもしなかった。
それからは私は彼に振り返ってもらうために色々と頑張りましたの。
彼の目を惹く為に綺麗になった。
彼の目を惹く為に邪魔者の弱みを握り逆らえないようにした。
彼の目を惹く為に反逆者達を鎮圧した。
彼の目を惹く為に邪魔な勇者と何度も戦った。
だけど最後まで彼は私に目を向けなかった。
だから決めた。
私はこの生では彼とも関わらないと。
今回皇都に来たのは前はは行けれなかった賑わっていた皇都を楽しむため。
楽しみですわ。
----------------------------------
----------------------------------
「青薔薇様。服はどうでしょうか?」
「えぇ。問題ありませんわ。」
部屋の外から聞こえた店員の声に私は答える。
このお店は特別な洋服店。
主にこの店は売る事がメインではなく貸すことがメインで、出先で着替える人を対象にしたニッチな商売をしている。
…………こんな商売をしているから私が知る頃には店を畳むひと月前になったのだけど。
私は部屋の中の姿見を見る。
青い長い髪。きめ細やかな白い肌。朝日の輝きを表した眼。左目の舌に涙を表すホクロ。長いまつげ。
服装は貴族が着るようなきらびやかな物ではなく、落ち着いた肩を出した黄色のワンピースに白の上着を羽織っている。
それに前に田舎で見かけたいい香りのする干し草で編まれた手提げ鞄。
「うん。良いわ。」
家で着る楽な格好の服に近い物ではあるも素材もよく肌触りも良く、私の美しさ色鮮やかを際立たせる良いものである。
なかなか良いものですわね。
私は部屋のベルを鳴らし、店員を呼ぶ。
「はい。青薔薇様。」
店員が品よく入室して私に尋ねてきた。
「出かけますわ。お会計を。」
「畏まりました。」
店員は手を叩くと一人の黒の燕尾服を着た男性が白い傘を携えて部屋に入室した。
「本日は日差しがお強いです。どうぞこちらを。」
「あら、気が利くわね。それではお借りいたしますわ。」
私は傘を受け取り街に歩み出す。
私は傘を刺し、歩き出す。
前はあの方に尽くし、あの方の為に働きました。
なら、今の世は私の為、私が楽しむ為に生きる。
それが良いでしょう。
「ふふっ!」
私は今の気持ちを表すように傘を回す。
さぁ、何をしましょうかしら?
将来、帳簿を誤魔化してた事が発覚する店に行って交渉して買い物をしましょうか?
それとも下剋上をした組織の現在の長に事実を書いた手紙を一筆したためてギスギスする様を楽しみましょうか?
それとも子供にイタズラを頼んでパニックになる街を楽しみましょうか?
「あら?」
楽しそうな事を考えてると目的地に到着しましたわ。
面白い事をする前にまずは昼食をとりましょうか。
皇都の情報を集めてる時に新聞に載っているのを偶然見つけた日暮れ亭というお店。
ここはなんでも光るソースが名物との事。
このお店は前にはそんな話題も聞かなかった店ですわ。
こんな奇抜な物を売っていれば噂ぐらいは耳に入ってもおかしくないに不思議に思い、今回ここに来ましたの。
外観は皇都でよく見られる煉瓦造りの建物でドアに店名が書かれた看板が架けられている。
庶民の店は前に何度も行った事がありますが改めて入るとなると新鮮な気持ちですわ。
では、入りますわ。
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃい。」
店内には私と同じ位の歳の少女と輝きを放つ少年がいた。
「…………ふふ!」
私は思わず笑みが漏れてしまった。
あぁ、あぁ、なんて事でしょう!
この空間を照らす存在感。
私の知っている彼は周りを寄せ付けない強いプレッシャーを人が呼吸するように当たり前のように出していたのに何これ?何これ何これ何これ何これ!
「お客様?」
これは!
これは!
「お客様?どうさ「愛いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」」
私の中の感情が爆発し、勢いよく倒れてしまった。
可愛い愛おしい美しい麗しい美々しい端麗で艶やかでたおやかで婉容で優姿で!
「愛に愛に愛に愛に愛に愛に愛に愛に愛にいいいいい!」
どんな獰猛な獣も幼い頃は可愛いというが彼の!彼の!クラウディオ様の容姿は!容姿は!
「可愛いらしいいいいいい!!!」
雷光に撃ち抜かれるような甘美なる衝撃に私は体を揺さぶられながら意識を手放した。
ようやく登場。
未来を知る役にして悪役令嬢。
彼女は何を為すのか?
なお、この後の出番。




