キルキュ キシュウ ポレピーア シュポレピーア
この娘からは普通ではない何かを感じる。
「ホウ?」
アタシは煙草の煙を飲み品定めをする。
この娘から感じたのは何か。
戸惑いがある。
恐らく娼館に初めて入ったからなのだろう。
お登りさんが初めて来た様子と似てる。
腰にはダンフォード家の家紋が入った剣を佩いている。
ダンフォード家の一人息子の前で堂々と持っているという事はヘイデンの旦那のお墨付きなのだろう。
ならばそれに見合う価値がこの娘にあるという判断をヘイデンの旦那は出したのだろう。
そしてこの説明出来ないこの娘から感じる感覚。
数々の人と関わって来た私でも感じたことが無い感覚‐いや?違う。近い感覚を経験した事がある。
それは前に放蕩将軍様と少し話した時感じた感覚だ。
だが、この娘よりも大人しい感じだ。
歴戦の武人である将軍よりも強く感じる娘。
…………なるほど。
確かに囲いたくなる気持ちが分かる物だわ。
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この部屋には二人の大人がいた。
一人はこの部屋に備え付けられているソファに座り体を丸め顔を紙の束に顔を近づけて何かをブツブツと呟く丸い鍔の付いた被り物を被った不気味な男性だ。
もう一人は当主の執務室にもある山積みの紙と墨壺とペン立てが置かれた机に座った女性だ。
その女性は黒い艷やかな髪を肩ぐらいの長さに色々と装飾を付け、服装は紫のドレスを纏って煙草?という物を吸っている。
どこかクーちゃんに似てるような気がする。
「ママ!紹介するね!この娘はリーちゃん!最近出来た私の友達だよ!」
「リーティエです。」
私はクーちゃんの母親にスカートをつまんでカーテシーをする。
本当はベアトリーチェという名前だけど。
………………?
今変な考えが頭を過ぎたが一体なんだろうか?
私が疑問に思っているとクーちゃんの母親が話しだした。
「まぁ、かわいい娘ね。初めまして。クラリスの母よ。さぁ、そこにいつまで立ってのも疲れるし、そこに座りなさい。」
そう言われ私達3人は男性が座ってるソファと反対側に置かれてるソファに座る。
クーちゃんの母親は男性を叩いて端に移動させ向かいのソファに座る。
「さて、貴方はどこから来たの?」
彼女からそう尋ねられる。
それに当然私は困った。
私は故郷をこの地では何て呼ぶのかわからない。
どこにあるのかもわからないのだ。
「彼女は拐われて来たんです。」
私が困っているとトーマスが助けを出してくれた。
「拐われた?」
彼女は目をわずかに開き、驚いたような表情をする。
「そうなんです。だから皇国語が不得手で。」
「ふーん?」
彼女は考え込むように煙草を吸う。
その姿は惚れ惚れしてしまうような様になる所作であった。
「となると砂漠の先か大陸からかい?」
サバク?なんだろうか?
「それ何ですけどさっき皇国博物館に行ってきたのですが、どの展示物も見たこと無いて言ってました。」
「何か見つかれば良かったのにな〜。」
「そう。」
彼女はソファに腰掛け、考えを纏めるように煙草を吸った。
「それでどうして貴方はダンフォード家と関わりがあるのかしら?」
彼女がそう尋ねたが、トーマスが変わりに答えてくれた。
「父さんから聞いたのですが襲撃者から父さんとジミーさんを助けたと聞きました。」
「助けた?」
「そうだよ!今日も博物館で変な大人に絡まれたけどリーちゃんがあっという間に組伏せたんだよ!」
またクーちゃんの母親が驚いたように僅かに目を開く。
「すごいわね?どこでその術を学んだの?」
「父です。」
「お父様が?お父様はgyyjやkfgyなの?」
クーちゃんの母親は私には意味を理解出来ない言葉を使った。
なんて言ったんだろう。
そう思っているとクーちゃんの母親が改めて話しだした。
「悪かったわ。色々聞いて。これからも娘ともどもよろしく。」
そう言って手の平を差し出したので私は手を握り握手をする。
それから綺麗な服を着た女性が部屋に入ってきてお茶を男性以外に淹れた。
私は持ち手が左側になるような位置に置かれていたのに右手で外側から回して右側に持って来てカップだけを持ち上げて香りを楽しむ。
紅茶から爽やかでマイルドな香りがし、僅かながらな木々の香りに気持ちが落ち着く。
口に一口含む。
美味しい。
風味が優しく口当たりがよい。
そこでふと視線を感じたので顔を上げる。
クーちゃんの母親がこちらを見つめてる。
「どうした?」
「あぁ、いいえ。何でも無いわ」
そう言って紅茶を飲む。
それにしてもこの紅茶美味しい。
「これ。美味しい。どこ。お茶?」
私は紅茶の感想を述べる。
頂いた物を褒める。
それが優良な関係への一歩だとお兄様が言っていた。
「ふふっ。これはお得意様のお客様のお店から購入したの。」
オトクイサマ。
確かよく店に来て、よく物を買って、良い関係築いた人の事を言うんだっけ。
「ここ。何の。店?」
「性の快楽を提供する店よ。」
クーちゃんの母親がサラッとそう言うとトーマスが吹き出した。
セイ?セイ?セイ?
「ようは子供を作る時に感じる気持ちいい感覚を提供して商売してるのよ。」
彼女は呆気らかんとしたように微笑んで答えた。
その言葉に私は思考を止めてしまった。
え?え?
「あらやだ?キャベツ畑から生まれると思ってたかしら?」
彼女はまるで変な事を言ったという感じに口を抑えて微笑んだ。
そんな事より。
「それ。ダメ。」
それは教えに背く行為だった。
教えでは生を創造する行為は神聖な行為で人は神に与えられた不可侵の行為なのだと言われている。
それを侵すなんて−
「子供。作る。行為。売る。間違い。」
「えぇ。そうかもしれないわね。」
彼女が当たり前のように言った。
「世間では体を売って金を稼ぐのは汚らわしい行為として毛嫌いされ、そういう事をする女は売女て呼んで蔑まされてますわ。」
そう言って茶を一口飲む。
「それで何が悪いの?」
『なっ!』
彼女のその言葉に私は驚く。
「この仕事があるから今日を生きる事も絶望的な娘も幸せな家庭を持つ事が出来た。借金で生きていくのを諦めた娘はここで稼いだお金と伝手で店を持ったわ。」
彼女はカップをテーブルにソーサに置く。
「こんな感じで人生を取り戻した娘がいるからこの仕事も悪くないわ。それで‐」
彼女は細めた瞳で私を睨む。
「あの娘達とあなた。何が違うのかしら?」
私は目を見開き驚く。
そんな私に構わず彼女は話を続ける。
「だってあなたは道徳的に悪とされてる殺人をして今はダンフォード家に保護されて衣食住に困らない暮らしをしている。それに何か違いはあるかしら?」
違う!あれは護るためでやったことであり、それに殺人は貴族の
「そこまでだよ。レイラ。」
部屋の中から初めて聞く男性の声が聞こえた。
その声はそこまで大きく無いが部屋中に響くような低い声だ。
声の方を見ると入った時からずっと紙の束を見ていた男性はその皺が浮かび上がった顔に添えられた緑の双眸でこちらを見つめていた。




