分岐点の前にて
「ひぐっ!えぐっ!」
どうしたんだろう。
私が二人の元に木のカップを持って戻るとクーちゃんが涙を流して泣いておりトーマスが慰めてる。
「どうしたの?」
私はトーマスにカップを渡しながら尋ねる。
「あぁ、なんでも怖い夢を見たって。」
トーマスはお礼を述べてカップを受け取る。
夢?
「トーマスやみんなが突然いなくなっちゃったの!」
詳しくは分からないが孤独になる夢との事。
「大丈夫だよ。僕は将来父さんの後を継ごうと思ってるからここから離れる事は無いよ。」
そう言ってトーマスはジュースを飲む。
「トーマスはずっと私の横に居てくれる?」
トーマスが突然咳き込み出した。
どうしたんだろう?
「ク、クラリス!?」
トーマスが顔を真っ赤にして涙を滲ませてるクーちゃんを見つめてる。
「あー。うん。約束する。僕はずっと君の側にいる。」
「トーマス!!」
クーちゃんがトーマスに抱きつく。
人は関係を深め、信頼しあい、支え合ってやがてこの人がいないといけない関係になっていくとお兄様が言っていた。
私はお兄様もお父様も大切で突然二人から離れてしまって寂しい。
だから家に帰りたいと思っている。
でも、ふと考える事がある。
もしこのまま家に帰る事が出来なかったら?
「………………」
いや。そんな事は無い。ありえない。
博物館で手がかりは得たんだ。
必ず帰れる。
私はその願いを我らの父にして王に届くように願う。
『迷える信徒に進むべき道を指し示し給え。』
その後、雑談をした。
内容は先ほどの通りの話だ。
それを拙い言葉でまた話した。
「嘘。私達そんな事してたの?」
クーちゃんは驚いている。
まぁ、自分じゃない自分が奇妙な行動をしてたんだ。
そう思ってもしょうがない。
「あぁ、もったいない!その時に意識がいえ、せめてその時の記憶があれば!演技の良い経験になったのに!」
クーちゃんが本気で悔しがってる。
その事に私は引いてしまった。
その後、私達は移動する事になった。
「どこ。行く?」
私の疑問にクーちゃんに答える。
「私のお母さんの所!」
クーちゃんのお母様の所か。
それにしてもさっきから街の様子が一歩進むごとに変わっていく。
まず、道行く人々の雰囲気が変わっていく。
さっきの通りは身奇麗な人達がいた。
だが、ここは違う。
男性は私の故郷の貴族のような服を着てる人が時々いるがどこか違う。
その身に合わない服を来てるようだ。
そして女性だ。
ふしだらに肌を見せ、スカートに設けられた切り込みから足を覗かせ、それぞれ体型を強調するような服を着て異性を誘い、誘惑してる。
目を反らしたいがどこもそんな感じなので恥ずかしさや困惑をかき混ぜた複雑な感情が私の胸を渦巻く。
「あ、もしかしてリーちゃんはこういうとこ初めてだった?」
私が戸惑っているとクーちゃんが心配して聞いてきた。
その様子は周りに慣れたように自然であった。
「ママの所なら個室だからマシだよ。」
そう言って私の手を優しく摑み引いて行く。
それに戸惑いトーマスの方を見るとトーマスもなんでもないような雰囲気を出している。
戸惑い、周りを見渡しながら歩いていく。
すごい。どこを見ても乱れた服装の人がいる。
破廉恥だ。淫らだ。色欲という言葉はこの街の為にあるんだ。
もう嫌だ。見たくないから目を瞑っておこう。
しばらくクーちゃんに手を引かれながら歩いていく。
「さ、着いたよ。」
その声に私は目を開ける。
私の目の前には黒い家があった。
その家は貴族の屋敷のような外観だ。
だが、前庭は無く、目の前には両開きの扉が見える。
「入ろうよ。」
そう言ってクーちゃんは扉を開ける。
「ただいま~!」
クーちゃんはそう言って中に入る。
私とトーマスは遅れて中に入る。
中は中央に大き目の広場がありその奥の方に駅で見た黒いクラブサンのような物があり、その広場を囲うようにソファーが幾つか置かれている。
そして違和感のある匂いがする。
それは甘いとそう感じる匂い。
だが、同時に気持ちを大きくし、そうして簡単に行動させてしまう。
危険を感じさせる匂い
「おかえりなさいませ。お嬢。」
どこからか男性の声がした。
その方向を見ると一人の若い男性が近づいて来た。
その男は闘技場で見た黒いスーツを着ていたが所々金の糸で刺繍をあしらわれ華美な印象を受ける。
そして上着の下の脇の所に何か隠してる。そういう佇まいだ。
カイシャでもそんな人はいた。
そういう人は大体短い杖や短剣を隠している。
「おや、今日は若旦那と…………その娘は?」
「リーちゃんだよ!」
「そうですか。」
クーちゃんがそう簡単に説明する。
やけに簡略的すぎるのだが、
「それで今、ママはいる?」
クーちゃんがそう尋ねる。
「えぇ、ボスなら仕事部屋で団長と一緒ですよ。」
「そうなんだ。じゃあ行こう!」
クーちゃんにそう促されて進む。
------------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------------
「ふむふむこれはこれはなかなか。」
アタシの前にはいつものように団長さんがうちの娘たちからのお話を読んでいる。
毎回思うが誰かの秘密とかロマンスではなく客の日常や何を買ったかとか何が良いのかねぇ?
まぁ、発した金にもならない情報をお土産付きで買ってくれるんだから良いんだけど。
アタシは紫煙の先で夢中になって読んでる有名な劇場のオーナーにして著名な脚本家に呆れながら見る。
そう思っていると扉がノックされる。
「はぁーい!」
「ママー!友達を紹介したいんだけど良い?」
外から聞こえてきたのはこの世に生まれた愛くるしく輝きを周りに放ち皆を笑顔にする愛娘のクラリスの声だった。
「はぁーい!入ってきな。」
アタシは部屋へ招き入れる。
扉は開き愛の体現であり、全てに愛され愛し皆に幸福を与え、水のような潤いを与えるクラリスとダンフォードさんとこの息子と後は見知らぬ少女が入ってきた。
その少女は古き貴族の証である銀髪に白い肌そして赤い目。
見た目だけはこのクラウディウスでちょっと珍しいくらいでいない事は無い。
だが、勘が告げる。
この娘は普通じゃない。




